★★★
それからは、ありえないことのオンパレードだった。
あの七島が、平民の私の手首をむんずと掴んだのだ。
えええっ?!!!!!!
なに?なに?なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!
やばい!やばい、やばい!!
掴まれてる掴まれてる掴まれてるって。
焦りまくりの私をよそに、七島はグイグイ私の手首を掴んだまま引っ張っていく。
わーー待て待て待てってば、なに?もしかして私ってば引っ張られてる。
超人気者イケメンの七島に?
「ちょっと、七島っ!、舞は駄目!」
沙也加が私の手首を掴む七島の腕を掴んだ。
「あ〜、あんたはコレ頼むよ」
七島は、首を前に出し沙也加をじっと見たまま掴まれた手を振り払った。
代わりに自転車のハンドルを沙也加に押し付けた。
「頼むって、なによ!」
突然の自転車を任されてひるんだ沙也加。
「少し預かっといて」
沙也加にそういうと、
また七島は、私の手首をグイグイ引っ張って校門から離れていく。
「さ、沙也加〜!!」
後ろを振り返り、沙也加に助けを求めた。
頼みの綱の沙也加は、片桐たちに押さえられてしまっている。
「舞!すぐに助けに行くからね!気をしっかりもって頑張れ!必ず操を守るのよ!!」
沙也加の大きな声が後ろから聞こえていた。
操って。恥ずかしいな。
一体いつの時代の言葉よ。
しかも、こんな昼間から。
周りのみんなは、まだガヤガヤしている。
「やだ、なんであんな子?」
「私を選んでくれればいいのに!悔しい」
女のコたちは、ほとんど落胆の声を上げていた。その言葉に私の心がえぐられていく。
やっぱり、私なんかだとあんな言われ方されちゃうんだな。
だけど、ほんとに
なんで私なんだろ。
これが、我が校公認ではないものの生徒の間では黙認されている月1の恒例行事だ。
去年から始まった行事。
毎月第一金曜日の放課後に見られる
『大奥 by七島』。
この日は、校門が徳川の時代、ドラマでも有名な大奥で言うところの御鈴廊下になる。
御鈴廊下とは、「上様のおなーりーーー」といって鈴が鳴り、廊下には若い女性が左右にずらりと並んでいる。
そのまん中をお殿様がゆっくりのっそりと吟味しながら歩き、今夜一緒に過ごすべく女子を選んたという長い廊下のことだ。
つまり、わかりやすく言うと、モテイケメンの七島は、毎月第一金曜日に七島将軍に変身するのだ。
七島将軍が校門に立ち、これから先のひとつきを共に過ごしたい女のコを選ぶという日なのだ。
とんでもない話だが、大奥という制度が過去の時代の日本で馬鹿らしくもまかり通っていたように、七島も真面目に地でやっているし、それが我が高校では、まかり通っている。
七島が選ぶ女のコは、これまで大抵美人だった。
なのに……。
何故今回は、私なの?
この世から美人が壊滅した?
いや、まだ、隣に沙也加もいたのに。
中には、七島の御目通り制度が嫌で、毎月第一金曜日は裏門から帰るという女子も少数だがいるにはいる。
その中の一人が沙也加だった。
毎月第一金曜日、七島をさけて裏門から帰っていたのに、今日に限って魔の金曜日だと言うことを、私も沙也加もすっかり忘れてしまっていたのだ。
だが、今回はなぜか、私が心配していた沙也加ではなく私が選ばれてしまった。
すぐ前を歩く七島の後頭部と右肩を見て、次に掴まれている自分の手首と七島の綺麗な手、そして長い指を見つめた。
わたし、やっぱり七島に手首掴まれてる。
あの七島が平凡な私をどっかへ連れてこうとしてない?
……………………………っ!
ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ?!
まじですか、コレ!!!
夢じゃないんですか?!
今思えば……
この日が私の悪夢の始まりだった。