仁王立ちしていた急に七島が動き出した上に突然大きな声を発したので、かなりびびってしまった。
私と沙也加は七島の方へ顔を向けた。
沙也加がうんざりしたような口調で
「なによ」
と言い、更に文句を言いかけたとき七島が、また口を開いた。
「お前はどいてろ」
声を低く響かせ、沙也加の肩を掴み横へ移動させるようにしてから、七島は前に出てきた。
ん?よかったー。今回は沙也加じゃなかったんだ。
ホッとしたのも束の間だった。
私の前にいた沙也加の肩を押しのけて移動してきた七島が、こともあろうか私の目の前に立ちはだかったのだ。
わあっお!こ、これはリアル七島。
かなり、ぎょっとした。
あまりのイケメンっぷりに思わず唾を飲み込み身体をひいてしまう。
ほんと、この世にいたんだなー。こんなイケメン。
実を言うと私は、今までこんなに近くでリアル七島を見たことがなかった。
同じ学年でありながら、クラスも違うし、人気者の彼の周りには、なんだかいつも人が沢山取り巻いていたから。
たがら、必然的に遠くからしか見たことがない。
当然ながら、彼が私の近くに来たこともないのだから会話したことさえ全くなかった。
やばっ、こりゃイケメンすぎる。
オーラを放ちまくり、まぶしすぎる七島がひょいと体を屈めて私の顔を覗いてきた。
うわっ、な、なにこの状況。
近くで見れば見るほど、恐ろしいくらいイケメンだった。
くっきりした瞳の奥が茶色くて、しかもなせかキラキラして光ってみえる。
沙也加は、イケメン嫌いだが私は違う。
イケメンも美人も好きだ。見てるだけでも気持ちがいい。
はっきり言って、七島の存在自体は芸術。
ものすごく見とれていた。
だって、七島ときたら、地球上でもっとも美しい形をしている人間の部類に違いない。
私が七島と、同じ人間というくくりでは申し訳なく感じるくらいだ。
だが、私はイケメンは好きでも七島のことは好きじゃない。つまり、七島がイケメンなのは認めるが、七島自体は好きじゃないってこと。
理由は、今まで遠くからみていた限りではあるが、誰にたいしても横柄な態度をとるし、俺はイケてる男子って感じが丸出しなのが恥ずかしい男なせいだ。
直接話したわけではないが、見ているだけで鼻につく偉そうな態度は不快だ。黙ってればいいだけなのに、更にイケてる感じを出したいオーラがキモすぎる。
イケメンってだけでいばっている。
全て自分の思い通りになると思っているっぽい所が心底胸糞悪い。
そんな七島と目が合っていた。
「お前だ、バンソーコー女、お前にする」
七島が私を指さして低い声でそう言い放った。
うえっ!バンソーコー女!
思わず、鼻に張っていたバンソーコーを掌で覆い隠した。
マジすか、こんなのは考えてもいなかった
予想外の展開すぎなんだけど。
「あれれ?壮士。どうしたの?
今回は随分毛色の違う女じゃん。
大丈夫なの、それで?」
七島の隣にいた男子、アイドル系イケメンの片桐 健太郎が私を見て首を捻りながら七島を窺う。
「決めたんだよ、今回はこれにする」
七島の人差し指が完全に私へと向けられていた。
「ん、りよーかい」
そう言うと、片桐が首にぶら下げていた銀色のホイッスルを口に当てて思いっきり吹いた。
Piーーーーーーー
終わりの合図だ。
まるで、ゴールでも決まったように響き渡るホイッスルの音。
ウソッ!!まじで私に決まりなの??!!
「やだ、うそーー」
「なんであの子なの?憎らしいっ」
「羨ましいっ」
「やばすぎない?七島くん、目がどうかしてる」
冷ややかな視線や羨望の眼差しを受け、いろいろな言葉が耳に聞こえてきてもいた。
いやいや、マジなの?