ここで暮らすたくさんの子どもたちに迎え入れられた少女は、名前を持っていない。


様々な手続きをするにあたって、基本的な戸籍情報が無いのは非常に困ることだった。



役所の待合室で、少女の小さな手を握ったまま、俺は悩んだ。


気難しい表情でひたすら悩む俺を前に、一冊の図鑑を広げる少女は、夢中になってそれを見つめる。



「・・・花好きなの?」

「すき」



間髪入れずに返ってきた答えをヒントに、俺はひとつの案を浮かべた。



「・・・ねぇ、本当に、俺が名前付けていいの?後悔、しない?」



強制的に名付け親を強いられた俺の立場なんか関係ない。


この子が嫌がるのであれば、それは延期にしたって構わない。


そう、思っていた。


だけど少女は、キラキラ光るその瞳を俺に向けて、悩むことなく言った。



「きーくんに、つけてほしい」



・・・大体の子どもの言葉に、嘘はない。