スマホだけを握りしめて、宛もなく走り続けた。
・・・会いたい。
凜に会いたい。
誰かの幸せの価値を、他人の俺に図ることは出来ない。
この世に溢れる幸せは一概に何かと断定することは出来ない。
・・・こんな単純な、誰にでも分かるようなことに気づけなかった俺自身に心底呆れた。
ずっと親に、過去の記憶に、・・・バカな自分に縛られていたことに気付いて、そんな自分を殴りたい衝動に駆られる。
『手、ぎゅってして』
冷たい空気、冷たい手、冷めた心の中で、彼女の温度を思い出した。
・・・離したかったわけじゃない。
離れたかったわけでも、自ら離したかったわけでもない・・・そんなのはただの言い訳に過ぎないけれど、それを彼女に伝えたい。
ごめん、好きだよ。離れないで。って
本当は言いたかった。
・・・凜がくれるたくさんの "好き" に、俺は一度も返せたことはない。
それはきっと、俺自身に自信が無かったからだろうと今は思う。