俺の物が、バザバサと音を立てて床に散らばる。


ゲージの中に閉じ込められた犬と同じように、俺はただ黙ってそれを見ていることしか出来なかった。



見るに耐えなくなり俯いた俺の前で影の動きが止まった。


男は一冊のノートを手にしたまま、目を泳がせている。




・・・凜に見せる絵を描くための、一冊の自由帳を持って。




「ふざけてるのか」

「・・・真面目だよ」

「ふざけているとしか思えない。なんだこのノートは。お前にも大事な女でも出来たのか?今日もそいつと遊んでたから遅いのか?」



彼女のあの笑顔が、俺の心に語りかける。


・・・凜。


彼女が大事な子であることに間違いはないし、今日も一緒に居たことは紛れもない事実。

だけど、俺と凜のあいだにやましいことなんか一切ない。


何の事情も知らないくせに、凜のことを粗末に呼ばないでいただきたい。

今もなお、限られた生命と向き合いながら必死に生きている子がいるというのに、そんなことも考えずにこんな発言ができる医者が居るという事実も認めたくはない。



「・・・俺はそういうつもりじゃ」

「お前に誰かを愛することなんて出来ない」