『えっ、あの、入江センセ?!』
「だから、なってみるか。その立場に。」
「入江先生????」
驚いたのはお姫様抱っこと言われる格好で抱きかかえられているあたしだけではなく
若干裏返った声で入江先生の名を呼んだ八嶋クンもみたいだった。
入江先生の
・・・意外な行動
・・・まさかの言葉
日詠さんと伶菜さんによる駆け落ちの背中を押した時辺りから
ウエディングドレスを即決購入したり、カフェでとんでもない量のホイップクリームを盛り付けてくれたりと
入江先生の意外な一面を垣間見ることはあったけれど
それは生徒の目がすぐ届く場所ではなかった
でも、ここは校舎内の数学準備室
ドアを開けたら、生徒がいてもおかしくないのに
こんな入江先生も
あたし、知らない
多分、八嶋クン・・も・・
あたしは抱きかかえられたまま、おそるおそる入江先生の顔を見上げると
そこには口角を小さく上げてふっと溜息をついた入江先生がいて。
「八嶋はとりあえず教頭にあった事実をそのまま伝えろ。噂話には目撃談を重ねればいいだけだから。」
「それって・・・入江先生はそのままどこへ?」
噂話には目撃談って
八嶋クンとあたしのあの夜の出来事を
入江先生に抱きかかえられたあたしの今の姿の目撃談で
掻き消してしまえ
そういうことなのかな?
でも、もしそうしたら
今度は入江先生の立場がどうなるのかわからないのに
なんでこんなことまでしようとするの?
「保健室。足首がこんなに腫れているのに、何も保護してないから。八嶋はちゃんと教頭には報告しておけよ。行くぞ、高島。」
『・・・・ハイ。でも・・・』
「俺に任せろ。八嶋も高島も守るから・・・・頼りないけど一応先輩だし。」
入江先生は八嶋クンにそう言い残し、あたしを抱きかかえたまま数学準備室のドアを開けた。
『入江先生・・・生徒が見てますけど・・』
「俺はできなかったからな・・・今までは・・こういうことを。」