6話「初めての特別」
どうして誰の特別になれないのだろう。
誰かを好きになれないのだろう。
街ですれ違う仲良しのカップルを見ると、みんなどこで出会って、どこで恋をするのだろうか。
世界にはたくさんの人がいるというのに、どうしてお互いに好きになるという奇跡が起きるのか。
そんなのはありえないようなのに、みんな恋人になり結婚をする。
そして幸せそうに微笑むのだ。
好きになっても相手が好きになってくれることなんて、奇跡なのだ。
彩華はそれを身をもって体験した。それが、ついさっきだ。始めての事に、恋愛をするのが怖くなってしまいそうだった。
けれど、今は何だか心地いい。
体がふわふわして、温かい。うとうととして、今すぐにでも深く眠れそうなぐらいだ。
それなのに邪魔をする人がいる。
先ほどから、ゆらゆらと彩華の体を揺らしている。
「おい、起きろ。電車動き始めたらしいぞ」
「………ん………眠い……」
「他の客の邪魔になるだろ」
「彼女さんならいいよー。寝させてあげなよ。今は俺ら常連しかいないし」
「か、彼女じゃねー!ほら、いいからいくぞ」
「ん………」
騒がしい声を聞き、彩華は目を擦りながらゆっくりと体を起こした。すると、バサッと何かが落ちる。彩華が後ろを見ると、ブランケットだった。それを見て、温かく感じたのはこれを掛けてくれたからだとわかった。
彩華はブランケットを拾って彼に渡した。