4話「手を繋ぎ、スタートする恋」
彩華は石段を下りながら、ハァーっと大きなため息をついた。
夕方、この神社に来る時は、心は弾んでいたのに、今は全く逆の気持ちになっている。心まで下り坂だった。
自分の迂闊な言動に、今さらながら反省してしまっていた。
何故、少し褒められたからと言って、あんな事を言えたのだろうか。葵羽のお世辞だとわかっていたはずなのに、調子がいいのも程があるなと、彩華は自分の行動を反省していた。
1年間気づかないふりをしてきたのに、先程の彼の神秘的な舞で、我慢という全ての壁は崩れ落ちてしまったのだろうか。
葵羽の左手の薬指にはシンプルなシルバーリングがはめられている。
それが意味するものがわからないはずもない。彼には大切な人がいるという証拠だ。恋人かもしれないし、もしかしたら結婚相手かもしれない。
それがわかっていて声をかけたのだ。
しかも、彩華はいつもよりおしゃれをして気合いを入れている。
葵羽がもしも鈍感だとしても、そんな女性から食事に誘われたら、自分に好意があるのではないかと気づくだろう。
誘った後の彼の複雑な表情は、やはり食事の誘いは迷惑だったのだろうと彩華は感じていた。
既婚者であったり、恋人がいるかもしれないもわかるようにしているのに、声を掛けてくる女性がいるとしたら、彼はきっと幻滅するのではないか。
大切な相手がいる人を誘惑するなんて、軽い女だと思われたかもしれない。