葵羽ルート 12話「強引なキス」




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 葵羽から逃げるように走り去った彩華は、電車のホームで呆然としていた。
 目は腫れてだろうし、化粧はボロボロのはずだ。そんな状態で街にいるのは恥ずかしいけれど、何故だかこの場所に座ると涙がこぼれてくるのだ。そんなわけでなかなか電車に乗ることが出来なかった。

 約20分はその椅子に座り、涙を我慢したり、こっそりハンカチで流れてきた涙を拭いたりしてやっとの事で電車に乗れるまで落ち着いた。


 本当は冷静に話すつもりだった。
 自分の気持ちを話して、彼が話してくれるのを待っていこうと思っていた。

 けれど、彼が自分を信じていない事がわかり、彩華はショックを受けてしまったのだ。そして、悲しみは怒りに変わり、葵羽に向かって声を荒げてしまった。
 そんな情けない自分に溜め息が出てしまう。


 だが、葵羽の言葉を聞いて胸を痛めたのも事実だった。
 確かに、告白された男の元へ行っていたのはダメな事なのかもしれない。けれど、理由も何も聞かずに「浮気」と決めつけられたのは、とてもショックだった。

 葵羽への彩華の気持ちは全く伝わっていなかったのだろうか。
 好きだと言っていた言葉や行動は、彼にはわからなかったのだろうか。
 彩華は、そんな事を思い、また大きくハーッと息を吐いた。