吉祥は、天満たちの想像とは少し違っていた。

雛乃の話では粗野で粗暴な男だと聞いていたため、鬼族に多い身体の大きな暴れ者の印象を持っていたが、実際は線が細くて気も弱そうに見える。

だが彼らは油断しない。

雛菊の夫だった男も同じように線が細い優男だったが、結局は暴力を振るい、果てに闇落ちして雛菊の命を奪ったのだから。


「雛乃がどうした?雛乃は狐狸の家族と共にここで暮らすことになっているが聞いていないか」


「き、聞いてはおりますが…あれらは我らの領地に住む者で管轄はこちらに…」


「狐狸はともかくとして、雛乃はうちで調べた結果、うちの家に由縁のある者だった。だからうちで働いてもらうことになったし、お前が狐狸の家族に背負わせていた借金もうちで一括返済しておいた」


――ぽんたち一家が雛乃を育てるにあたり、種族が違うため彼らは大きな苦労をした。

雛乃は人型なため人に近い暮らしをさせなければならず、穴倉に暮らしていたところを平屋に変えたため、その資金を鬼脚家に立て替えてもらい、衣食住の世話をしてもらっていた。

莫大な借金があると打ち明けたぽんの父の話を聞いた朔は、すぐに借金を一括返済して借りを返した。


「そんな…ですが雛乃は俺…私の嫁になると言う約束で金を立て替えたので、それを反故にするわけにはいきませんぞ」


「だが手も触れることができないそうだな」


そう言われてさらに言葉を詰まらせた吉祥は、雛乃を連れ戻すべくここまでやって来たため、後に引くことはできなかった。

とにかく雛乃に会わせてくれと懇願しようとしたところ――


「雛乃さんは、僕の許嫁です」


それまで口を挟まなかった天満の静謐に満ちた言葉に、吉祥は固まった。

そして朔と輝夜も、顔にこそ出さなかったが天満の言葉に驚き、笑みを浮かべている弟を見つめた。