朔に会うには様々な手順を踏まなければいけない。

何ヶ月も待たされることはざらで、幽玄橋の中央に立っている赤鬼と青鬼の前で青ざめながら見上げていた吉祥は、いつまでも待つ覚悟だった。


「こんな所まで逃げ込んで…」


沸々と怒りがこみ上げてきたが、ぽんの家族らも遠野を出てここに逃げ込んでしまい、帰って来ない。

絶対に許さない、と思った。


「通っていい。主さまがお会いになる」


「なんと…お会いになって下さるのか」


「どこにも寄らず、この道をまっすぐ通って来いとのことだ。主さまはお忙しい。早く行け」


初代の百鬼夜行当主の時代から仕えてきたという赤鬼と青鬼一族の巨体の足元を恐々としながら潜り抜け、言われた通り幽玄町の最奥にある屋敷へと向かった。

徐々に無くなる人通りに不安が募ったが、屋敷の前の大きな門の前で腕を組んで待っていた真っ青な髪の驚くほど顔の整った色白の男――雪男にちろりと目を上げられ、声をかけられた。


「お前が吉祥か。待ってたぜ」


「あなたは…もしや雪男様では」


「そのもしやだ。言っとくけど主さまは今機嫌が悪いからあまり長居しない方がいい」


――雪男。

先代の時から仕えているこの男が氷雪系の妖で最強の男だと謳われている。

あの先代と戦って決着がつかなかったという話は語り草になっており、その整いすぎた容姿からして備えている力は絶大だと分かった。


「雛乃はここに?」


「居る。狐狸の家族も居る」


門を潜り、奥へ案内してもらっているうちに、そこかしこから視線を感じた。

しかもその視線の持ち主たちは――当主の朔の側近たちであり、身内であり、百鬼たちである。

それぞれ一騎当千の強者たちから一様に見られている吉祥は、蛇に睨まれた蛙の状態だった。


「なんだここは…」


そう思うのも、仕方がなかった。