暁を鍛えるにあたり、ひとつだけ気を付けていることがある。

せっかくこんなに可愛いのだから、刀の振りすぎで手にまめなんか作ってはいけない。

刀術において既に才能が開花しつつある暁にはあまり長時間木刀や真剣を握らせず、体幹を鍛えたり、身体の捌き方などに重きを置いて鍛えていた。


「ねえ天ちゃん、天ちゃんは雛ちゃんをお嫁さんにするの?」


「え?急に意味が分からないことを言うね、なんで?」


「女の勘!」


…まだ月のものも思春期もきていないのになにを言い出すんだと顔に出てしまった天満の頬をむにっと引っ張った暁は、庭の池の近くで御座を敷いて休憩していた中、唐突に雛乃を勧めてきた。


「雛ちゃんはねえ、天ちゃんのこと好きだと思うの。でも私に遠慮して好きって言えないんだよ」


「え?え?誰が誰に遠慮だって?」


「雛ちゃんが!私に!」


まだ諦めていなかったのかと呆れた天満は、おにぎりを頬張っていた暁の口の端から米粒を取って食べた。


「雛乃さんならいいの?」


「うんいいよ!じゃあいつにする?明日にする?明後日?」


「何が?」


「祝言!」


「ねえ、僕の気持ちは考慮されないの?」


「え?天ちゃんも雛ちゃんのこと好きでしょ?」


…意外とちゃんと見ているのだなと感心して暁の頭を撫でていると、雛乃が茶を持って縁側を下りているのが見えた。

暁に引っ掻き回されてはたまらないと考えた天満は、暁の耳元でこそりと囁いた。


「秘密。でも僕が一番大切に思ってるのは君だけだよ」


「きゃあん!」


きゅんとした暁に押し倒されてむちゃくちゃされている所に、雛乃到着。


「お茶が入りましたよ」


「ん、ありがとう」


手渡された湯飲みを受け取った時、指先と指先が触れ合った。

少し恥ずかしそうにしている雛乃の表情が奥ゆかしく、笑みが漏れた。