雛乃に見つめられた天満は、その目の中に揺らめく光に何かを見た。

かつての雛菊も、そうやって潤んだ目で見つめてくることがあり、温かさを求められてその度に抱きしめたり唇を重ねた。

恋をしてくれている、とまではいかなかったとしても、意識はされていて、触れられても嫌ではないと言った――

そうなれば雛乃の性格からして積極的に関係を深めようとはしてこないはずだから、自分からぐいぐい行くしかない。


「特に何も求めてませんから…天様ももう気にしないで下さい。私は大丈夫です」


「じゃあ何かしてほしい時は必ず僕に言ってね。じゃあ雛乃さん、手を出して」


「?はい」


差し出された雛乃の手をじっと見つめた天満は、にこっと笑って雛乃の手をやわらかく握った。

驚きのあまり身体を縮こまらせた雛乃の首から首巻きを奪い取り、その噛み跡にも長い指でちょんと触れた。


「隠さなくていいよ。空気にさらしてた方が早く治るだろうし、悪い虫がつきにくくなるから」


「わ、悪い虫って…?」


「雛乃さんを狙う悪い虫。それはいわゆる鬼族にとっての所有印だかね」


手にも首にも触れた――雛乃は嫌がらなかった。

今も顔を真っ赤にして俯いている――

雛乃に触れることができるのは男では自分だけなのだと確信を得た天満は、雛乃の肩をぽんと叩いて立ち上がった。


「じゃあ暁の鍛錬に行って来るから、それまでゆっくりしてて」


「は、はい」


天満が去った後、雛乃は両手で顔を覆ってころんと横になって丸まった。

…確かに全然嫌ではなかった。

むしろあの大きな手や端正な顔を凝視してしまって想いに気付かれなかっただろうかと心配が先に立ち、悶えていた。


「ばれてないよね…気付かれてないよね…?」


心の落ち着きを取り戻すまで、小一時間かかった。