兄たちから背中を押された天満は、暁の部屋に戻ってふたりが遊んでいるのを見ていた。

自分から見ると、暁と雛乃の方がよっぽど親子のように見える。

天満自身としては暁を鍛錬しなければならなくて厳しく接しなければならないことが多いが、雛乃は思う存分甘やかしているし、顔つきは全然違うのに何故か親子のように見える。

見ているとなんだかとても穏やかな気分になってふたりを見ていると、暁がさっと近付いて来て膝に乗って身を乗り出して来た。


「ねえ天ちゃん」


「ん、なに?」


「雛ちゃんがここに来てひと月が経つでしょ?何かお祝いしてあげたいんだけど、何がいいかなあ?」


「そうだねえ…」


雛乃は着の身着のままの状態でここまで命からがら辿り着いたし、お洒落をしている姿をほとんど見たことがない。

お洒落をすればまた一段と可愛らしくなるはずなのに、と思っていた天満は、暁の耳元でこそこそ内緒話をした。


「柚葉さんにお願いして何か作ってもらったらどうかな?例えば耳飾りとか簪とか」


「!それいいね!天ちゃん天才!素敵!かっこいい!」


「ふふふ、褒めてもお菓子位しかあげないぞー!」


脇をくすぐると可愛い声を上げて転げ回る暁に目を細めた雛乃は、天満の笑顔を目にして顔が赤くなるのを感じながら、視線を落とした。


「ああそういえば雛乃さん、幽玄町はまだ散策してないのでは?」


「!あ、え、ええ…そうですけど別に出歩かなくても構いません」


「この町は安全ですから妙な輩は入って来れません。よければ僕が案内しましょうか」


「え…い、いいんですか?」


「いいですよ、そうと決まれば今から出かけましょう。暁はお留守番だからね」


えー、と残念そうな声を上げた暁の頭を撫でた天満は、自然に手を伸ばそうとして引っ込めた。


――まだ雛乃には触れたことがない。

触れたいと思うけれど、男に対して恐怖心を抱いている雛乃の心が近付くまで、自ら触れることはやめようと決めていた。