ぽんの父母は朔たちと対峙して身を縮こまらせてひれ伏していた。

本来朔と会うには様々な手順があり、そしてすぐに会えるというわけでもなく、用件次第では会えないこともあるという。

妖を統べる家の、それも最も実力があると言われている三兄弟に見つめられて戦々恐々だったものの、朔はにこっと笑って緊張感を和らげた。


「赤子だった雛乃を拾い、よくここまで育ててくれた。感謝する」


「…?は、はい…」


いくら鬼族の子とはいえ、鬼族の始祖とも呼べるべき家の者に感謝される覚えはなく目を白黒させていると、朔は天満にちらりと視線を走らせた。


「詳しく調べてみたんだが、あの娘はうちの家と縁のある者だったんだ。ずっとずっと、捜していた。死んでいたらと思うとぞっとする」


ぽんの父は、雛乃が赤子だった時のことを思い返していた。

真新しい産着に包まれて、まだへその緒のついていた状態の雛乃は敷き詰められたやわらかい草の上に置かれていた。

懐には真っ赤な髪飾りが入れられていたが、それはさしたる情報ではないと思い、その場で話さなかった。


「そ、そうでございましたか…。あの娘はそれはもう可愛くて、狐狸族の手前どもで育てるのは骨が折れましたが、いい娘に育ってくれました。そうですか、主さまのお家と縁が…」


「だからお前たちには本当に感謝している。鬼脚の家の者と揉めているそうだが、これからはうちがお前たちを保護する。住処を提供するからそこでぽんと共に暮らしてくれ」


――思ってもない好待遇に恐れ戦いたぽんの父母たちは、それを断ろうと口を開きかけたが、それよりも先に天満が口を開いた。


「雛乃さんは次期当主の暁付きの傍仕えになりました。うちで手厚く保護しますし、誰にも触れさせません。あなたたちにはいつでも会えるように取り計らいます。他に安心できないことは?」


「あ、安心できないだなんてそんな!雛を…雛乃をよろしくお願いいたします!」


天満の声色に籠もった本当に大切に思う心を感じたぽんの父母は、またひれ伏して娘の幸せを願った。