雛乃が屋敷に来て半月が経った頃――ぽんの家族が幽玄町にやって来た。

自分がそうだったように命からがら逃げて来たのかと思ったが、ぽんの父母はぴんぴんしていて、目を丸くしながら庭に下りてふたりに縋り付いた。


「お父さん!お母さん!よく無事で…!」


「ああ雛や、お前こそよく逃げ延びた!私らは安倍晴明様の式神のおかげで無事にここまで辿り着くことができたんだよ」


「そうだったんだね、本当に良かった!」


ぽんも加わってもふもふの三匹とひとりが輪になってわちゃわちゃしているなんとものどかな光景だったが、会話は結構不遜なものだった。


「で、あの…あの方は…」


「お前が逃げた後血眼になって捜し回っていたようなんだが、家の矜持に関わると父親から止められていたらしいんだ。私たちはその隙に逃げて来たんだよ」


喉に棘が刺さったように、ずっと気になっていた。

あの男はどこまでも追って来る――そんな確信があって不安で胸が押し潰されそうになっていたが、それを和らげてくれたのは、天満と暁だった。


「雛ちゃん良かったね!私ももふもふしていいっ?」


「駄目」


傍の天満に窘められた暁が頬を膨らませた時、それまでずっと黙っていた朔が居間を指して中へ促した。


「よく来た。話があるから中に入れ」


「は、ははっ」


畏まって深く頭を下げたぽんの父母の手を取って立たせた雛乃が一緒に中へ入ろうとすると、朔がそれをやんわり止めた。


「俺たちだけで話すから、雛乃は暁を見ていてくれ」


「?は、はい…」


だが天満は朔に呼ばれて中に入り、珍しく障子まで閉めて外部から断絶したのを暁とふたり顔を見合わせて首を傾げた。


「なんだろうねえ?」


「さあ…。悪い話じゃなければいいのですが…」


――そしてぽんの父母もがちがちに緊張していた。

圧倒的な存在感を放つ朔、輝夜、天満に見つめられて、身を縮めて文字通り小さくなっていた。