その日から、雛乃は徐々に天満の心に寄り添おうと努力した。

何せ相手は目が潰れそうなほど眩い美貌の持ち主――傍に居るだけで緊張して、目を合わせることも満足にできない。

目が合うとぱっと逸らしてしまう――それでも天満は何ひとつ文句を言うことなく笑っていた。

どこか懐かしそうな表情を浮かべて、笑っていた。


「暁様は本当に天様がお好きなんですね」


「天ちゃん?うんそうだよ、だーい好き」


「まるで本当の親子のようで見ていると和みます」


「親子?違うよ、天ちゃんは私の未来の旦那むぐむぐっ」


団子を頬張りながらさも当然のように絶対誤解される発言をしようとした暁の口を慌てて塞いだ天満は、半ば羽交い絞めしながら作り笑顔で叱った。


「こら、妙なことを言うんじゃありません」


「天ちゃ、息!息ができないぃ!」


身体に回った天満の腕をばしばし叩いた暁は、解放してもらうと胸を張って背筋を正した。


「天ちゃんは私が守るの!天ちゃんに近付く女の人とか、天ちゃんを苦しませる悪い夢とか!」


「悪い…夢?」


回数こそ減ったものの、天満は未だに悪夢を見続けていた。

その度に暁が部屋を飛び出て天満の元へ向かうため、一体何事かと心配していた雛乃は、そこではじめて理由が分かって眉を潜めた。


「ずっと…見てるんですか?」


「まあ…そうですね。でも回数は減ったので」


「でも天ちゃんすっごい苦しそうなの。どうやったら見なくなるのかなあ?」


「君がすぐ駆けつけてくれるから大丈夫だよ。ほら、口の端に餡子がついてる」


天満に頼られてにこにこしている暁が可愛らしく和んだものの、天満の顔色が時々悪いのはこういうことかと分かった雛乃は、暁と同じように胸を張った。


「わ、私もすぐ駆けつけますから!暁様、私も呼んで下さいね」


「うん!一緒行こ」


ふたりで暁の頭を撫でて、愛でまくった。