暁の日常は、鍛錬に始まって鍛錬に終わる。

その間沢山休憩を取って、沢山眠る。

沢山食べて、朔から帝王学を教わり、また鍛錬。


雛乃が屋敷に来て数日が経ち、この日々の繰り返しを見て来て、女である暁が刀を振るわなければいけない不条理に、つい甘えさせがちになってしまう。


「暁様はつらくないのですか?手もこんなに痣ができて…」


「でも天ちゃんは手加減してくれてるんだよ。前にも言ったと思うけど、天ちゃんみたいに二刀流になりたいの。だからもっともっと鍛えないと」


暁は始終天満と共に居る。

父の朔よりも長い時を共に過ごし、愛情を一心に受けていることがよく分かる。

鍛錬の後はねだれるがままに一緒に風呂に入ったり、一緒に菓子を食べたりして甘えさせてやった後、天満の鍛錬が始まり、その間に掃除をしたり、朧から屋敷の規則を教えてもらう――

これがなかなか多忙で、へとへとになってしまうことが多い。


「疲れましたか?」


「あ、いえ…まだちょっと慣れなくて…。でも大丈夫です。天様こそ毎日ご苦労様です」


「僕は慣れてますから。…暁は忙しないから仕えるのは大変でしょうが、彼女は次期当主なので、支えてやって下さい」


「はい」


彼らの背後では、暁がすやすや昼寝をしていた。

その幸せそうな表情にふたりの頬が緩み、天満は緋色の羽織を身体にかけてやって艶やかな黒髪を撫でた。

暁はお洒落が好きで、よく髪飾りや色の鮮やかな帯や羽織を好んで着ている。

今日身に着けている珊瑚の髪飾りもとても可愛くて、会話が途切れた時にそれを褒めた。


「その髪飾り、とても可愛くて似合ってますね」


「ああ、これは僕のお嫁さんのです」


「……え?」


「似合うから彼女に譲ったんです。可愛いでしょう」


――途中から天満の言葉が耳に届かなかった。


お嫁さん――


その一言がずっと、耳の奥で木霊していた。