背伸びをして手拭いで傷口を圧迫してくれている雛乃の必死な表情に思わずぷっと笑った天満は――雛乃に盛大に叱られた。


「なに笑ってるんですか!思っている以上に傷口が深いですから早く部屋に上がってこれで押さえてて下さい!朧様、救急箱を…」


朧は肩を揺らして笑いを噛み殺しながら救急箱を雛乃に手渡した。

縁側に腰かけた天満の頬から手拭いを取ると、すぐさま血止めの軟膏を塗ってくどくど。


「洗濯しますから、後でお着物脱いで下さいね。あと袖で傷口を拭わないでください。せっかくきれいなお顔立ちをしているんですから傷跡でも残ったら…」


そこでじいっと天満に見られていることに気が付いた雛乃は、正座したまま飛び退るようにして天満から離れた。


「傷口の手当てをありがとう。でもあれ位慣れて…」


「な、慣れちゃ駄目です!本当に気を付けて下さいね…」


天満の静かな光の揺蕩う眼差しに吸い込まれるようにして見惚れてしまい、勢いが尻すぼみしてしまった。


「いい汗かいたから風呂に入ってくる。天満、お前もどうだ」


いいですね、と言いかけて雛乃に睨まれた天満は、清潔な手拭いで汗を拭きとると、はにかんで見せた。


「せっかく手当てしてもらったので、後で入ります」


「ん」


――朔は雪男と共にその場を離れて廊下を歩きながら、ほくそ笑んでいた。


「見たか、もう尻に敷かれている」


「主さまの作戦が功を奏したな」


天満もまた雛乃の叱り方があの頃の雛菊と全く同じで、笑みを噛み殺していた。

雛乃に頬に触れられた時――どきっとして、まるではじめて恋をした時のような感覚に陥って自分自身恥ずかしくなったが、あの頃と違うのは…

積極的に雛乃に関わることができるということ。

所帯も持っていなければ、周囲の目もない。


「もう気付いていないふりはしない」


好きだと言う気持ちを。