暁に稽古をつける時は真剣は殆ど使わない。

だが朔の手には妖刀天叢雲が握られており、天満の二本の愛刀の妙法と揚羽を無造作に放物線を描いて投げて来た。


「あの朔兄、突然何ですか…」


「二刀流の敵には滅多に出会えないから俺に稽古をつけてくれ」


「稽古!?朔兄には必要な…うわっ」


いつ鞘を抜いたのか――それまで笑顔だった朔の目に青白い炎が揺らめいているのを見た天満は、一瞬の内に肉迫してきた朔の刀を揚羽で受け止めた。


『おお天叢雲殿、相変わらず錆ひとつなくお美しい』


『お主もな。我の斬撃を難なく受け止めるのはさすがよ。さあ、かかって来るが良い』


『応』


「おい、勝手に喋るな」


この三振りの刀は妖刀であり、自我があるため人語を介する。

雛乃はそのはっきりとした会話を聞いて驚きのあまり立ち尽くしたまま動けなかった。

刀が話すこと自体異常なのに、朔と天満が目にも止まらぬ速さで打ち合ってる様は荘厳であり、剣戟の音は美しく、そして天満の引き締まった表情に見惚れた。


「あの朔兄、殺気を抑えてもらえると嬉しいんですけど」


「今の俺はお前の兄ではない。敵と思ってかかって来い。そうでないと…お前を本気で斬るぞ」


その声色にも殺気が籠もり、一瞬でも目を離すと斬りかかってこられそうな圧に天満は周囲を見回す余裕もなかった。


「どうしたんだ主さまは」


「きっと雛乃にいい所を見せてやろうと思ったんでしょう。天満は普段のほほんとしていますが、戦闘時においては野性味あふれる一面を見せますからね」


雪男と輝夜がそう小声で話していたが――雛乃は鞘から刀身を抜いてやや状態を逸らして朔を待ち受けている天満の姿に終始見惚れていた。

この男と始終時を共にするということが、どれほど心臓に悪いか…

すでにその身に感じていた。