「ねえ天ちゃん、あの女の人…可愛いねえ」


「え、うん、そうだね…。しばらくここで預かるから仲良くするんだよ」


「うんっ」


親子のような会話をしつつ、天満は後ろを振り返ることができなかった。

いつか…いつか雛菊とまた会うことができたならば、自分はどんな反応をするのだろうか――と考えないこともなかったけれど、現実は頭の中が真っ白。

――感動的な再会を夢見ていたのかもしれない。

雛菊と抱き合い、また会えたことをふたりで喜び、またふたりで悠久の時を過ごす未来を、夢見ていたのかもしれない。


「ここが君の部屋だから、何か必要なものがあれば雪男に…」


「は、はい」


雛乃は終始俯いていた。

目を合わさないようにされていることに気付いていた天満は、暁の手を引いてその場を去ろうとしたが、ぱっと顔を上げて名残惜しそうな表情をした雛乃とはたと見つめ合った。


「て…天様とお呼びしてもいいでしょうか」


「ああ、はい、僕の通り名なのでお好きなように」


「主さまのお子様はなんとお呼びすれば…」


「彼女はお嬢とか姫とか呼ばれてますけど、それもお好きなように」


若干突き放した言い方になってしまったかもしれないな、と後悔したものの、天満もいっぱいいっぱいで、一刻も早くその場から立ち去りたかった。

心を整理しなければ。

やっと会えたというのに、喜びが沸き上がらない自身の心の在り様を見つめ直さなければ。


「ねえねえ、雛ちゃんって呼んでいい?」


暁がそう訊いた時、天満はどきっとして瞳を揺らしたが、雛乃は気付かずふわりと微笑んで少し腰を屈めて暁の目線に合わせた。


「はい、もちろん。お姫様」


「えへ…」


照れる暁と、戸惑い続ける天満。

その様を、気配を殺しながら見ている者が在った。