どうして――何故なのだろうか?

何故今まで気付かなかったのだろうか?

年頃は幾つ位なのだろうか、まだ若そうに見えるけれど、何故転生した時すぐに気付くことができなかったのだろうか?

そして何故雛菊――雛乃は、はじめて会ったかのような顔で見るのだろうか?


「天満…天満」


「っ!すみません…ちょっと立ち眩みがして…」


朔に促された天満は、僥倖の再会を遂げた歓喜よりも戸惑いが先に立ち、重い足取りで朔の傍に暁と共に座った。

そこでしっかりと雛乃と目を合わせた。

鬼族にしては顔立ちがきつくなく伏し目がちで、眉も下がり気味で、唇はきゅっと一文字に引き結ばれている様は、あの頃の雛菊と同じだ。

腰まで届く黒髪を緩くひとつに纏めて何度もちらちらと上目遣いで見る様も、同じ。


「…というわけで狐狸の馴染みを暫くの間受け入れることにした。そういう約束だったな」


「はい、ありがとうございます」


天満が頭を下げるとぽんも勢いよく頭を下げて朔に感謝の意を告げると、どこかぼうっとしている雛乃の袖を何度も引っ張った。


「お前の働き口を世話してくれるんだぞ、もう遠野には戻らなくていいんだ」


「!ほ、本当…?」


「ああ本当だ!だから主さまにもっと頭下げるんだ、ほら」


――とは言え、雛乃は朔や天満、雪男など目が潰れそうにいい男を間近で見たことが今までなかった。

特に――特に天満からは目が離せず、目が合うと慌てて頭を下げて顔を隠した。


「客間を与えるからそこを使え。天満、案内を」


「えっ?あ、はい…」


そういった雑事は雪男の担当だったが、何故か指名された天満が立ち上がると、暁もぶら下がるようにして立ち上がった。


「私も行くっ」


「じゃあ行こうか…雛乃さんも」


自然と手が伸びた。

自然とその手を取りそうになった雛乃は、熱いものに触れたかのようにさっと手を引っ込めて胸の前で握り締めた。

それには訳があったけれど、何も言わず先導して歩き出した天満の後ろを歩き、何度も既視感を覚えるその後ろ姿を見つめ続けた。