また悪夢を見た。

頻繁に見る悪夢の内容は毎回同じ。

伸ばした手が届かず、雛菊が目の前で強襲されてしまう、あの光景。

どうして、どうして、どうして――

晴明には悪いけれど、神仏など存在しないのだと血が出るほど唇を噛み締めた。

もし居るのなら、きっと雛菊を救ってくれたはずだから、と。


「…ちゃん、天ちゃん」


はっとして目覚めると、いつの間にやって来ていたのか、暁が心配そうな顔をしてしがみついていた。

握られた手が真っ白になっているのを見た天満は、上体を起こして頬に滴る汗を拭って両手で顔を覆った。


「ごめん、また悪夢を見ちゃったのか…」


「大丈夫?お水持って来たよ」


湯飲みを差し出された天満は、それを一気飲みして瞬きもせずじっとこちらを見ている暁の頭を撫でた。


「ありがとう。いつからここに?」


「ちょっと前から。天ちゃんが気になって見に来たら苦しそうだったから」


それは勘とか直感と呼ばれているものより強いもの。

歳が十を超えてから個室を与えられてひとりで寝ている暁は、天満が苦しむ様が脳裏に浮かぶと寝ている時も飛び起きてこうして駆けつける。

それはもっと小さかった頃から繰り返されていて、こうして駆けつけると天満が落ち着くことも知っていた。


「もう大丈夫だよ。ああもう…君に迷惑かけたくないのにな」


「迷惑じゃないよ、天ちゃんと一緒に寝れるから嬉しいもん」


天満に抱き着いて半ば押し倒した暁は、寝かしつけるように胸をとんとん叩いて腕枕をしてもらった。


「天ちゃんがもう怖い夢を見ませんように」


「見ませんように」


ふたりで願い、額をこつんと合わせた。