それはまさに魔性ーー人外の者。

その姿、人型にて人あらざる美の集合体。

一目にて明らかに妖と分かる、百人中百人が、この男は絶対に優しいはずだ、と思わせる透明な美貌の男は、隣で居心地悪そうに歩いている背の小さな女を連れて、繁華街を歩いていた。

誰もが振り返る――あまりの衆目に、紬は顔を上げることができず、速足で先を急いでいた。


「ちょっと紬、少し店を見て回ろうよ」


「いえ、私はお役目がございますので」


「ちょっとだけ。ちょっとだけだから。ね?」


輝くような笑顔を向けられた紬がぐっと言葉に詰まっていると、周囲から嬌声――悲鳴のような歓声が響いた。

天満はそちらには目を向けない。

兄たちと同じく、女と目を合わせるだけで地獄絵図が展開されるのが目に見えているからだ。


「これなんか似合いそうだけど。どう?」


「…可愛い…ですね」


天満が立ち寄った店は髪飾りや帯飾りが売られている店で、軒先で紬に似合いそうな薔薇の形をした髪飾りを見つけた天満は、それを紬の耳の横にすっと挿してみた。


「うん、可愛いね。店主、これを貰うよ」


「は、はい!お代は結構ですので!」


――天満が幽玄町、ひいては平安町を守っている妖の一族の者であることは平安町の者も知っている。

天満が選んだのは決して安くはない代物だったが、ひれ伏すように頭を下げている店主の肩をぽんと叩いた天満は、懐からその髪飾りの二倍の金を手に握らせた。


「商売は公平に。おかげでいい物が手に入ったよ、ありがとう」


どぎまぎしている紬の背中をそっと押して店を出た天満は、ようやく顔を上げた紬に猛反論をくらった。


「わ、私の顔はその…このような可愛い髪飾りには似合わな…」


「いや、似合ってるけど。紬は美人だけど、こういうのも似合うのはお得だね」


――天満に褒められた紬の表情がふわりと和らぐと、満足した天満は進む先の道の人垣が割れると、ため息をついた。


「これだけは慣れないなあ…」


「仕方ありません。さあ、早く行きましょう」


「はいはい」


天満の先をずんずん歩き出した紬の顔は――赤くなっていた。