天満と輝夜が一目のない場所で話していたのを偶然見てしまった雛乃は、きっと自分のことなのだと青ざめながらその場から離れようとした…が――

その雛乃の手をぐっと握ってきた手にぎょっとして振り返ると、真顔の暁が立っていた。


「暁…様…」


「ねえ、天ちゃんに何もしないでね」


「え?」


「天ちゃんを傷つけないで。私、雛ちゃんのこと好きだけど、天ちゃんの方が大事なの。天ちゃんはずっと傷つきながら生きてるの。だから…苦しめないでね」


――月のものを迎えてから随分大人びた表情や言動を見せるようになった。

身体つきもみるみる女らしくなり、衝撃の成長速度を見せる暁の真っ赤な目にひたと見据えられた雛乃は、強い力で握って離さない暁の手に手を重ねた。


「傷つけるつもりはなかったんです」


「でもずっと天ちゃんを避けてるでしょ?あのね、天ちゃんは優しいから気を遣ってくれてるんだよ。優しいからって色々言っちゃいいってことでもないよね?雛ちゃんの今の態度はひどすぎるよ。天ちゃんに優しくしてあげて」


爪を立ててきた暁の必死さに胸を打たれた雛乃は、小さく頭を下げて謝った。


「ちゃんと…ちゃんとお話をしてきますから。暁様…ご迷惑をおかけしてすみませんでした」


にこっと笑った暁に笑みを返した雛乃だったが、朔から屋敷を出ていくように言われたことや、天満に縁談の話が持ち上がっていることは言わなかった。

これ以上暁を心配させたくなかったし、何故か妹や娘のように思ってしまっている暁にも様々な負担をかけていることを知っている雛乃は、そっと手を外して天満たちの話が終わるのを待った。

そしてちょうど暁が去った頃に天満がこちらに気付いたのが分かると、心臓が早鐘のように打ち始めて緊張しすぎて息が詰まった。

天満が近付いてくる――

そのやわらかな微笑を見ると――

わけもなく涙が零れて、慌てて指で拭って天満を待った。