朔を送り出した後、広大な庭にぽつんと佇んでいた輝夜を見止めた天満はすぐさま駆け寄り、その袖を引いた。


「おや天満。少しは顔色が良いですね」


「心配かけました。今日は大分良いです」


にこりと女子と見紛う微笑を見せた輝夜に笑いかけた天満は、辺りに何者の気配がないことを確認すると、芙蓉たちが世話をしている花畑の一角に誘導した。


「輝兄には僕の行く末が見えているんでしょう?…ああ、すみません、言えないんでしたね」


「言えないというよりは、それを知ったことで様々な弊害が生じるからですよ。例えば努力を怠ったり、慢心したり、諦めたり」


輝夜は様々な偉業を為した。

幼少の頃から未来を知る力があり、最近までこの屋敷に戻ることがなく、その頃のことを話すこともほとんどない。

だが、確実に雛乃との今後を知っているはずなのだ。

だからこそ、少し自分から距離を取って静観していることを、天満は知っていた。


「うん、そうですね、輝兄は間違ってません。ごめんなさい」


「ふふ」


童の頭を撫でるようにして頭を撫でられた天満は、雪男が近付いてくるのを察して小さく手を挙げた。


「天満、私はお前の未来に口を出したくはないのです。お前だけでなく未来とは等しく当人が決めることですから。で、雛乃とはどうするつもりですか?」


「少し…話をしてみようと思います。雛乃が口を聞いてくれるなら、ですが」


「問題ないでしょう。しかしお前は私たち兄弟の中で一番消極的ですねえ、こんなに男前なのだから、もっと自信を持ちなさい」


むにむにと頬を引っ張られた天満は、兄ふたりと話したことでかなり気が晴れて、重たい腰を上げる決意をした。


「ちょっと頑張ってみようかな」


「その意気ですよ」


そして天満は、雛乃の元へと足を向けた。