湯は白く濁っていて、湯の下がどうなっているかは分からないが――恐らく裸だろう。

その膝の上に今自分は乗っているわけで――そう思ってしまうと同時に猛烈に動悸がしてきて天満の胸を押した。

だがそれもまた裸なわけで…

意識してしまうともうどうしようもなく、目が合うまでずっとこちらを見続けている天満から顔を逸らした。


「あ、あの…っ」


「僕も普通の男だから、他の男の話をされていい気分じゃないし。…この前話したよね、僕の父はとても嫉妬深くて、他の男と母が少し話をしただけで殺気が駄々洩れだったって」


「そ、それとこの事態はどう関係が…」


「父は常々言ってたんだ。‟俺から逃げられないように、足の腱位は切るつもりだった”って」


――鬼族は元々嫉妬深い者が多い。

鬼頭の当主――つまり天満たちの父は非情で有名な男だったが、唯一愛した妻や数多く恵まれた子たちには愛情を注いでいる、と聞いたことがあった。


「僕も君が僕から離れようとしたなら…それ位のことはするつもりではいるよ。何せあの父の子だからね」


「そんな…天様はそんなことしません」


「そう?買い被りすぎじゃない?少なくとも僕の兄ふたりは同じことを言うと思うよ。…ねえ雛ちゃん、想いが通じ合ったんだから、もっと互いを知り合いたいって思うのが普通じゃない?違う?」


今まで天満の自分に対する本気度を量り兼ねていた。

なにぶんこの美貌――声をかければそれを断る女など皆無だろうし、遊びでもいいから一夜を共にしたいと願う女も星の数ほどいるはずだ。

だが目が合うと、天満のやや切れ長の目の中にはゆらゆらとたゆたう情愛の炎が浮かんでいた。

遊ばれているかもしれない、という悩みは、それで消えた。


「私も…天様を知りたいですけど…でも怖くて…」


「怖いのはお互い様だよ」


「違います。私は…その…経験がなくて…」


天満が目を瞬かせた。

その後ふっと笑うと、雛乃をきゅっと抱きしめて、耳元で囁いた。


「僕が全部教えてあげるから、怖がらないで」


雛乃の最初で最後の男になる。

天満の最後の女になりたい。


ふたりの想いは、重なり合った。