暁とは女同士だから、湯着など着て入浴したことはない。

だが天満は男だし、まさか裸で入浴するわけにはいかないが――天満は一体どんな格好をしているのだろうか?


「は、裸なんて…無理よ…無理だわ…」


だがもう覚悟を決めたし、亡くした妻には悪いけれど、天満が自分に飽きるまでは傍に置いてもらいたい。

だから要求にはなるべく応えたいし…喜んでもらいたい。


「大丈夫よ…きっと何も起きないわ。だって天様だもの」


自分に言い聞かせるようにして浴場へ向かった雛乃は、戸の向こうから聞こえる湯の音で天満がすでに居ることを知って固まってしまった。


「あっ、雛乃、今は風呂は天満が使って………ははあ、なるほど…そういうことか?」


「ゆっ、雪男様…!あ、あの、これはその…」


途中ばったり雪男に出くわした雛乃が慌てふためいて言い訳をしようとしたが、雪男は全てを理解していると言わんばかりに何度も大きく頷いて腕を組んだ。


「いや、天満はまだ病人だから介助してやってほしい。介助以上のことをしたって構わなねえけど」


口をあんぐり開けて絶句している雛乃の顔を見て吹き出した雪男がひらひら手を振って去ってゆくと、雛乃は何度も大きく深呼吸をして両手で胸を押さえた。


「大丈夫…大丈夫…」


思い切って手を開くと、脱衣所には天満が脱いだ着物や帯が入った籠と、まっさら新品の湯着の入った籠が置いてあった。

湯着は――浴衣のような質感で、丈夫に見えた。

湯に浸かっても素肌が見えない程度には丈夫に見えて安心した雛乃は、意を決してものすごい速さで着物を脱ぎ、湯着を着込んだ。


「あの、天様…」


「入っていいよ」


明快な返事にまだ怖じ気づきそうになったが、もし――もしいずれ天満と閨を共にする日が来るならば、こんなことでいちいち悩んではいられない。


「入ります…」


天満は裸だろうか?

それとも湯着を着ているだろうか?


そのことで頭がいっぱいになっていた。