芙蓉や柚葉に相談したかったけれど、こんなことを相談しようものならば、朔たちの耳に筒抜けになってしまうのは明白だった。

もしかしたら今日――天満と閨を共にするかもしれない。

普段も同じ部屋で寝ているが…少しどころか、かなり訳が違う。


「しっかりしなくちゃ…私がしっかり理性を保ってないと…」


もし万が一天満に誘惑されたとしたならば――全くといっていいほどそれを拒絶できる自信はない。

それでもまだ誰にも見せたことのない身体を晒す自信はなく、まごまごして何も手がつかなくなっていた。


「ねえ雛ちゃんどうしたの?真っ赤になったり真っ青になったりしてるよ?」


「!暁様…あの…これはその…」


それでぴんときた暁は、縁側で座布団を胸に抱きしめて右往左往していた雛乃の手をぎゅうっと握り締めた。


「天ちゃんのお嫁さんになるって決めたの!?」


「えっ!?それはまだ…まだですけど…」


「天ちゃんはね、お嫁さんが死んでずーっとひとりだったの。私が天ちゃんをお婿さんに貰おうと思ってたけど、雛ちゃんならいいって思ってるんだから、雛ちゃんが貰ってくれないと、私が天ちゃんをお婿さんにしちゃうよ?」


――初耳。

まさに青天の霹靂な爆弾発言をされてさらに顔色が変わってしまった雛乃は、ぶるぶる首を振ってそれを断った。


「暁様と天様は血が近いので駄目ですよ、駄目!それなら…私が……天様に選んで頂けるなら…」


「ぜーったい大丈夫!ねっ、雛ちゃん!天ちゃんをお願いね?」


月のものを迎えて急にぐっと大人びた暁に縋るようにお願いされた雛乃は、そこでようやく決心を固めた。


天満を独りにさせるわけにはいかない。

あのどこか哀愁が漂って切ない雰囲気を漂わせている天満に選ばれるのならば――応えよう。


「はい…任されました」


「うん!」


まだ成人したばかりで子を持ったことのない雛乃だったが、暁は不思議と娘が居たならばこんな風に愛しく思うのだろう、と思わせる暁の艶やかな黒髪を撫でた。


身分違いで許されない恋路だと思っていたが――覚悟を決めた。