天満の舌が指を這い、雛乃は肩を引きつらせてその魅惑的な感触に耐えようとした。

だが惚れた男にやや上目遣いで見つめられると、正気ではいられなくなる。

元凶の男は居なくなり、天満とはもう何の障害がないように思えたがーーそれでもやはり、亡くした妻の存在は大きい。


「て、天様…」


「天満、でいいよ」


「あの、私…その…離して下さい…」


「離したら僕から逃げるつもりでしょ?それは許さない。ほら、まだついてるからじっとして」


前妻の話は絶対にしなければならない。

天満の妻にーーなど到底恐れ多くて想像すらできないし、亡き妻を越える存在になれるとも全く思えないけれど、伝えたかった。


「奥様のことは、よろしいんですか…?」


動きを止めた天満は、透き通るような美貌に微笑を浮かべて小さく首を振った。


「絶対に許してくれる。そういう優しい子だったから」


それで納得したわけではなかったが、天満が晴れやかな顔をしていることが嬉しくて、雛ちゃんは無言で頷いた。


「ところで僕、まだ身体が痛いんだ」


「!いけませんっ、早く横になって下さい!」


「うん、それは後でいいから、お風呂に入るのを手伝ってくれない?」


「お、お風呂!?」


素っ頓狂な声を上げた雛乃を開放した天満は、頬にまだ残る傷を軽く掻いてさも悲しそうにしょげて見せた。


「背中も流したいし…駄目?」


風呂とはつまり、裸でーーと目まぐるしく顔色を変えていると、天満は問題ないと言わんばかりに軽く両腕を広げた。


「湯着があるから大丈夫。じゃあ後でお願いします」

 
「ちょっ、天様!」


この話題は終わり、というように悠々と去って行く天満の後ろ姿を呆然と見送った。


「どうゆう、こと…」


頭の整理が追いつかず、大混乱。