できるだけかいつまんで話してみたものの――それでも長い時間がかかり、朔は百鬼夜行に出てしまい、辺りは真っ暗になっていて、庭で焚かれているかがり火や灯籠の火をふたりで見ながら過ごした。

冷酷無慈悲でとにかく無口な父が人である母に惚れて、同じ時を過ごせない苦悩に身を焦がしたこと――そして実は母が人であり人でなかったと分かった時の父の安堵の様…

それは雪男から聞いていて父に直接問うたことはないものの、あんなに母に今でも惚れている父なのだから、相当堪えただろうなと理解できた。

もし雛菊が…雛乃が人だったならば、きっと自分も苦しみ、長い生を捨てたかもしれない。

父にはその覚悟があり、母に全てを捧げる熱い信念があった。


「…というわけなんだけど、ちょっとだいぶ端折ったけど、僕の話分かった?」


「ぅ、ぐす…っ、分かりました…。先代様は単に冷たいお方ではなかったんですね。奥方様を愛しておられて…」


「今でも熱烈にね。とにかく他の男と話そうものなら殺気を抑えられないし、母様がどこかへ行こうものなら狼狽えて捜しに行く位は大好きかな」


話しているうちに猫又の子が身体をすり寄せてきてそれを抱き上げて膝に乗せた天満は、鼻をぐずぐず言わせている雛乃に頬を緩めて白い歯を見せて笑った。


「今度会わせるよ。父様はともかく、母様は誰とでも仲良くなれるから気負わないでいいからね」


「お…お会いしてもいいんですか?」


「うん、だって雛ちゃんを紹介したいし。これから付き合いが長くなるから」


――それは一体どういう意味なのか、と訊こうとしたが、天満にじいっと見つめられて言葉に詰まった雛乃は、傍に置いていた蜜柑を手にして視線を落として皮を剥いた。


「こ、これっ、食べますか?」


「うん、ちょっと今手を離せないから食べさせて」


目を閉じて口を開ける天満の長いまつ毛――

あまりにも綺麗で手がぶるぶる震えてしまい、手の中で蜜柑が潰れて果汁が滴った。


「な、何か拭くもの…」


立ち上がろうとした時――天満にその手を引き寄せられた。

そしてその手は天満の口元に――