鬼頭家の長兄3兄弟の佇まいは、ある意味常軌を逸していた。

ただ座っているだけ――本当にただ座っているだけなのに、それだけで圧倒される。

特に朔については目が合うだけでも恐ろしく、その美貌には怒りの色も微塵も浮かんでいないのに、冷や汗が止まらなくなっていた。


「主さまは機嫌が悪い。早く息子を連れ帰ってちゃんと教育し直しておけよ」


「…返す言葉もありませぬ」


「主さまからもあったけど、先代の耳に入るようなことだけはやめてくれよ。皆殺しだけじゃ済まない。お前らに加勢する連中全員息をするように殺される。覚えておけ」


ぞっとした。

先代――十六夜の無慈悲冷酷な様は知っていたが、実際対峙したことはないし、噂でしか知らないものの、誰もが口を揃えて言っていた。


‟あの男には絶対逆らってはいけない”と。

一子しか恵まれないはずの鬼頭家をどこか嘲ていたが、人の女を妻に迎えた途端、大所帯になった。

呪いが解けたのだ、と当時大騒動になったのはまだ記憶に新しい。


「主さまにはお許し頂けたのだろうか」


「今の所はな。ぎりぎりってとこだ。だけどお前の息子がまた騒動を起こしたら、次は間違いなく無い」


「あの娘に夢中になったばかりにこんな…」


斗南のその呟きを耳にした雪男は、吉祥に会わせるため長い廊下を歩いていたその歩みを止めて振り返った。

雪男の表情に同じく歩みを止めた斗南は、肉食獣を目の前にした草食獣のように息を殺した。


「騒動の発端はあの娘…雛乃だ。うちとはもう縁を結んでる。だからこそ手を出されたら主さまだけじゃなく全員が黙ってない。俺も含めてな」


「…二度と手出しはさせませぬ」


癇癪持ちの息子が唯一執心しているあの娘――もっと早く遠ざけていれば良かった。

お家の危機…断絶させるわけにはいかない。

例え息子をこの手にかけてでも。