鬼脚の当主――斗南は、ただただ平服していた。

相手がいくら鬼頭家の当主と言えど、たかが半妖。

本来食い物にしか過ぎない人との間に子を為した前当主を激しく恨んでおり、今もその感情は消えていない。

それはただただその強さに憧れて崇拝していた男が伴侶に人の女などを選んだことへの憎悪にも似ていた。

だからこそ、愚息の始末をつけるためわざわざ幽玄町までやって来たのだが、心の底から謝罪する気はさらさらなかった。


だが今――


「お前の息子は今軟禁状態だ。会いたいか」


「…いえ…愚息の顔など二度と見たくはありませんが、ここに残せば手間となるでしょう。手前どもで始末をつけますので、平にご容赦を」


平服している斗南の前には、朔、輝夜、天満、側近の雪男の姿が在った。

皆が自然体に見えるが、こちらが一歩でも動こうものならば、首を落とされてしまう――そんな危うさを感じていた。


「俺は身内に手を出されると見境がなくなる。まあ父ほどではないが。今回の件、父の耳に入ればお前の家は恐らく一族郎党共に殺されるだろう。そうならないように気を付けるといい」


――以前朔が、弟の天満の関係で鬼族の者たちを一族郎党共に殺した事案があった。

その天満も同席していたが、透き通るようなその美貌にはうっすら笑みが沸いており、斗南の背筋を凍らせていた。


「はっ、御心のままに」


「これ以上話すことはない。連れ帰って二度とこの地を踏むなと重々躾けておけ」


「申し訳ございませぬ…」


完全に、侮っていた。

たかが半妖だと高を括っていたが、実際目の前にすると、その圧倒的な美貌と漲る妖力は妖の中で恐らく右に出る者は居ないだろう。

側近の雪男でさえも、追随できる者は恐らくほとんど居ない。


そんな恐ろしい巣の中に迷い込んだ斗南は、ただただ愚息の愚行を呪っていた。