ふたりがなんとなく眠れぬ夜を過ごし、そして夜が明けた時――夜叉の仮面をつけた暁が起こしにやって来た。

この仮面をつけている時は素顔を晒したくない来客がある時だけで、まだ少し痛む身体を起こした天満は、布団の上にちょこんと座った娘に等しき暁の頭を撫でた。


「誰か来るのかな?」


「うん、雛ちゃんをいじめるあのおじさんのお父さんたちが来るんだって」


「おじさん…」


吉祥は恐らくまだ雛乃と同じ位の年齢のはずなのだが…

もしかして自分はおじいさん位と思われているのかと微妙な気分になった天満がはにかむと、素早く寝癖を整えた雛乃は、少し青ざめた表情で俯いた。


「若様の父君は、とても厳格なお方です。若様が私をお嫁にと言い出した時、それはもう反対なさっていたので安心していたのですが…何故かお許しになって…」


「吉祥は癇癪持ちみたいだし、それで折れたのか、家出するとでも言ったのか…理由は分からないけど、君はもう僕のだから」


「え…」


「えーと、僕のというか、正式にはまだ僕のじゃないけど、まあいずれ僕の……こら暁、なんでにやにやしてるの」


「べっつにー?天ちゃん、いつ雛ちゃんをお嫁さんにするの?」


突然そうのたまって布団の上を転がり回っている暁の脇をくすぐって笑わせた天満は、これまた最高の笑顔でもってふたりをぽうっとさせた。


「機が熟した時、とでも言っておこうかな」


「いつ熟すの!?ねえ、いつ!?」


「さあ、いつかなー」


――まるで親子のようなふたり。

そこに違和感なく自身が存在していることに気付いていない雛乃は、まだ若干緊張しつつも戯れるふたりを見て癒されていた。