僕は恵梨佳さんを支えながら、事務所へ連れて行った。
少し小刻みに震える恵梨佳さんの体。
額のハンカチを抑えながら、椅子に座り目はうっすらと潤んでいた。あれだけ凛とした態度をとれていた彼女も、実際は怖かったに違いない。
少しして事務所のドアが開き支配人の姿を見た時、恵梨佳さんは立ち上がり深々と頭を下げた。
「申し訳ありません」と。
「君が謝ることはありませんよ。君はしっかりと周りのお客様の事も配慮し、対応してくれました。何も非はありませんでしたよ」
いつものように穏やかで優しい支配人の声だった。
僕の方を見て
「亜崎君、悪いんだが付き添いで鳥宮さんを病院まで連れて行ってくれますか」
「僕がですか?」
「ええ、お店もようやく落ち着いてきましたし、後は残りのスタッフで十分に回せます。それに今の彼女を支えてあげられるのは、君が一番適任だと私は思うんですけどね」