「なんだとまだこれ以上待たせるって言うのか」
その男性客は立ち上がり、恵梨佳さんの襟口をわしづかみ、思いっきり引き寄せようとしたとき、彼女はバランスをくずし転倒した。
床にかがみこ、恵梨佳さんはそのまま動かなかった。
まずい!
持っていたトレーを投げ出し、恵梨さんの所にかけだそうとしたとき、僕の左肩にずっしりと重くそして熱い手が乗った。振り向くとそこには支配人の姿があった。
支配人藤堂直已。いつもは穏やかでそしてダンディな40歳くらいの彼のその表情は、いつも僕らとコミュニケーションを取る時のような穏やかな表情ではなかった。
「亜崎君、君はここにいなさい」
彼はそう言い残し、恵梨佳さんの所に向かった。