有田優子の手が僕のほほにそっと触れた。

「あなたその子に恋しちゃったんじゃないの?」

片手でその長い黒髪を抑え、その潤んだ瞳が僕の瞳に映りだされ、スーと彼女の唇が僕の唇に触れようとしたとき。


彼女のスマホが鳴り響いた。

間一髪だった。

多分編集社の担当からだろう。彼女が渋々電話に出た隙に、僕はその場から立ち去った。


その姿をじっとあのするどい目つきで、僕の姿を追っていた。


別に部長の事が嫌いなわけではない。

それよりも()かれる部分は多い。僕もれっきとした男性だ。あれだけ美人の女性に好意を持たれているのには悪い気はしない。むしろ光栄というべきだろう。 それにしてもなぜ僕なんだ?


部員の中のみならず、彼女だったらもっと財力もあってイケメンの男を何人でもつかみ放題じゃないのか。


こんな奥手の平凡な僕に、興味を持たなくてもいいんじゃないのかと、僕はそう思っている。

ふと時計を見るとバイトの時間が迫っていた。