「部長、すみません。言えません。でも喧嘩していたのは間違いです。僕はある人を探していただけなんです」
「ふぅん、ある人ねぇ。そのある人って言うのも女性なんでしょ」
小さくうなずいた。
「あはは、白状した。ようやく亜崎君にも、後を追いかけるような女性が出来たんだ」
「あ、いや。そう言う女性じゃないんですけど」
「否定するところがよっぽど怪しいわ。じゃ、どんな女性なの」
もうここまでくれば洗いざらい話すしかないだろう。
「僕の読者です」
「読者?」
「はい、僕の書いた小説を気に入ってくれた読者さんです」
「ファンが付いたってこと?」
「ファンとかそういう感じでもないんですけどね。感想を聞かせてもらえるっていうので待ちきれなくて、僕が勝手に教養学部にまで行ってしまったんです。ただそれだけです」