さっきとはまるで違う。
「おかげさまでもう大丈夫ですよ。あ、お見舞いのお礼まだでしたね。すみません」
「いいのよそんなこと。私もあれから忙しかったから、ほとんどここにも来なかったしね。亜崎君は退院の時ちゃんとメールくれたから、それで安心できたし」
「そうでしたか。ほんと部長は忙しそうですね」
「そうねぇ、連載2本に新刊の長編が1本控えているから、もうギリギリかな」
文芸部、部長。有田優子、彼女はすでに作家としてその業界では名の知れ渡っている存在だ。
今彼女が書いた書物は飛ぶように売れている。この活字離れと言われている時代に出版社も彼女に対しては今や特別待遇どころではないらしい。
メディアにもここのところ多く取り上げられている。彼女の作品の中、大賞にノミネートされた作品は多くあるし、実際に賞を受けている作品も2作品ある。
噂では映画化の話も出ているらしい。
ある意味僕にとっても有田優子という人物は、目標の作家の一人でもある。
こうして文芸部員としてのつながりがあるだけでも、ありがたいところだ。だが、彼女の性格はかなりきつい! きついという表現が妥当であるかどうかはわからないが、言いたいことはカミソリでスパッと切ったように物おじせずに口にする。だから中には彼女を嫌う人も多いのは確かだろう。
それでも本当はとても情にあつい人だという事は、何となく感じている。
「ところで亜崎君。あなた教養学部の人と何かもめてたって聞いたけど、どうしたの?」
何でこの人までそれを知っているんだ。