「亜崎君、遅れて来たのに、今度は宮村君とおしゃべりですか」

部長のなんとも、とげのある言葉が僕ら二人に投げられた。

やっぱりご機嫌斜めなのは本当だったらしい。何となくこちらを見る視線が冷たい。
そのあとニコッとほほ笑んだ、その笑顔が背中をぞくっとさせた。多分今日はこの後何かあるに違いない。


そんな予感が的中する。


文芸部の会合が終盤になりかけた時、宮村は我先に

「部長、大方の議題はもう終わったと思うので、先に退席してよろしいですか」と、先頭を切ってこの場から抜け出そうとしていた。

「別に構わないわよ。宮村君何か用事があるんでしょ」
「はい、その通りです。部長」

すっと席を立ち小声で僕に「亜崎、後は頼んだ。後で連絡入れろよ」と言って部室から出ていった。

なにか降りかかりそうな危険を察知したかのように、彼奴は僕をいけにえとして部長に差し出したのだ。

その後宮村に続くように、他の奴らも自然解散していくように消えていった。

結局部室に残ったのは、部長の有田優子とこの僕の二人だけ。

なんだか、オオカミに狙われているウサギの気分がよくわかる構図が、今ここに出来上がっていた。

部室に誰もいなくなったのを確認して、部長は僕に話しかけてきた。

「亜崎君、もう怪我の方は大丈夫なの」