今村沙織さんからSNSでメッセージが送られてきたのは、僕が教養学部へ足を運び、美津那那月と出会った夜遅くだった。
彼女、美津那那月が沙織さんに連絡をしてくれたおかげだろう。
本来ならば、僕からメッセージを送ればよかったんだろうが、そこまで僕の頭は回っていなかった。
本音はとにかく沙織さんに会いたい。そのことが先走り、あんな行動をとってしまった。
僕としては本当に異例というか、今までこんな思い切った行動をとったのは初めてかもしれない。
美野里との時は、僕が彼女の書き上げている小説を無断で見てしまったという罪悪感からどうしても、美野里に謝らなければという思いが先だっていたのは確かだ。
だが今回はそんな罪悪感はこれっぽっちもない。
これはおかしい。
おかしいとは面白いという事を言うまでもないだろう。変だという事だ。
異常だと言ったが、……うん、異常という言葉しか今は思い浮かばない。
あの童顔。……いやなんだろうあの雰囲気、何か僕を引き付ける今村沙織という女性の存在が物凄く気になる。
惚れたのか?
それとも、僕の書く小説に興味を持ってくれたから、こんなにも気になるのだろうか。
今村沙織、沙織さんから送られてきたメッセージはこうだ。
「こんばんは亜崎達哉さん。感想を送るって言っておきながら、大分時間が経ってしまいました。ごめんなさい」
いやいや「ごめんなさい」なんて、謝る事じゃないでしょ。僕が勝手に待っていただけなんだから。
「ナッキ、美津那那月と会ったんですね。わざわざ教養学部まで私を訪ねて来てくれたそうで、ここのところあまり具合がよくなくて、休んでしまっていたんです」
やっぱりそうだったのか。美津那さんが言っていたことは、本当だったんだ。沙織さんの病気ってどんな病気なんだろう。あの様子だと、何度も入退院を繰り返しているような感じだけど。
沙織さんがお兄さんと呼ぶ、あの田嶋医師が主治医という事は。確か田嶋先生は脳外だったな。という事は脳、頭の中の病気? ん―、医学の知識はほんと乏しいからこんな発想にしかならないけど。もしそうだとしたなら重い病気じゃないか!
なのに僕は無理なお願いを、彼女にさせているんじゃないだろうか?
そんなことをふと思いながら次のメッセージに目をやる。
「でも今はもう大丈夫。ご心配なさらないでください。早速ですが、原稿ざっと読ませていただきました。文芸部のサイトにある亜崎さんの作品とは違う雰囲気のある小説ですね。私は好きですこういう物語。サイトに乗せてある小説もいいんですけど、どうしてこの小説載せなかったんですか? 人気出ると思うんだけどなぁ。でもこれは私個人の思いですけどね。そうそう、本題から大分それてしまいましたけど、私の感想、できれば直接お会いしてお伝えした方がいいような気がします。メッセージで文章にすると何となく、私が伝えたいことうまく伝わらない様な気がします。亜崎さんのご都合よい日と時間をご連絡ください。それとこれはお願いなんですけど、私一人でお会いするのは少し恥ずかしいので美津那那月、私はナッキと呼んでいます。彼女も同席することをお願いできますでしょうか? お返事はいつでもいいですよ。それでは夜遅くにすみません。失礼します」
何という慎ましい文章なんだ。
僕より文才はあるなこりゃ。なんだかこっちの方がものすごく恥ずかしい。あんな未完の様な小説を読んでもらって、感想までもらおうなんてしている。
本当にいいんだろうか?
そう考えつつも、スマホの予定表をにらみつける。
今日は金曜の夜。土日は大学は休みだし、休みの日にわざわざ出てきてもらうのは気が引けるしなぁ。
ああ、バイトもあるじゃないか。
月曜、んー、文芸部の定例集会か。まぁこれは午後だしなぁ。
やっぱり昼かなぁ。学食で一緒にランチでも食べながら……学食かぁ。できればどこか静かに話ができる店の方がいいんだろうけど。でもなぁ、今月自転車買ったから厳しいしなぁ。
680円の日替わりランチごちそうするっていう事で……。
まぁこれでいいだろう。
自己納得して返事を書いた。
「夜遅くに返事を返してすみません。体調戻られて安心しました。そうとは知らず、ご無理をさせてしまっているようですみません。もしよろしければ、月曜のお昼学食で一緒にランチを取りながらお聞きするというのはどうでしょうか? ご都合が悪ければ、後でメッセージをください。時間は、沙織さんに合わせます。いかがでしょうか」
沙織さんに比べればそっけない内容かもしれないけど、今の僕にはこれが精いっぱいだ。恐る恐る送信ボタンを押す。
しばらくしてから、返信のメッセージが来た。
「こちらこそ、お時間作ってもらってすみません。それでは13時に学食でお会いしましょうね」
そのあと送られてきた可愛らしいひよこのスタンプが、ピコピコと頭を何度も下げていた。
彼女、美津那那月が沙織さんに連絡をしてくれたおかげだろう。
本来ならば、僕からメッセージを送ればよかったんだろうが、そこまで僕の頭は回っていなかった。
本音はとにかく沙織さんに会いたい。そのことが先走り、あんな行動をとってしまった。
僕としては本当に異例というか、今までこんな思い切った行動をとったのは初めてかもしれない。
美野里との時は、僕が彼女の書き上げている小説を無断で見てしまったという罪悪感からどうしても、美野里に謝らなければという思いが先だっていたのは確かだ。
だが今回はそんな罪悪感はこれっぽっちもない。
これはおかしい。
おかしいとは面白いという事を言うまでもないだろう。変だという事だ。
異常だと言ったが、……うん、異常という言葉しか今は思い浮かばない。
あの童顔。……いやなんだろうあの雰囲気、何か僕を引き付ける今村沙織という女性の存在が物凄く気になる。
惚れたのか?
それとも、僕の書く小説に興味を持ってくれたから、こんなにも気になるのだろうか。
今村沙織、沙織さんから送られてきたメッセージはこうだ。
「こんばんは亜崎達哉さん。感想を送るって言っておきながら、大分時間が経ってしまいました。ごめんなさい」
いやいや「ごめんなさい」なんて、謝る事じゃないでしょ。僕が勝手に待っていただけなんだから。
「ナッキ、美津那那月と会ったんですね。わざわざ教養学部まで私を訪ねて来てくれたそうで、ここのところあまり具合がよくなくて、休んでしまっていたんです」
やっぱりそうだったのか。美津那さんが言っていたことは、本当だったんだ。沙織さんの病気ってどんな病気なんだろう。あの様子だと、何度も入退院を繰り返しているような感じだけど。
沙織さんがお兄さんと呼ぶ、あの田嶋医師が主治医という事は。確か田嶋先生は脳外だったな。という事は脳、頭の中の病気? ん―、医学の知識はほんと乏しいからこんな発想にしかならないけど。もしそうだとしたなら重い病気じゃないか!
なのに僕は無理なお願いを、彼女にさせているんじゃないだろうか?
そんなことをふと思いながら次のメッセージに目をやる。
「でも今はもう大丈夫。ご心配なさらないでください。早速ですが、原稿ざっと読ませていただきました。文芸部のサイトにある亜崎さんの作品とは違う雰囲気のある小説ですね。私は好きですこういう物語。サイトに乗せてある小説もいいんですけど、どうしてこの小説載せなかったんですか? 人気出ると思うんだけどなぁ。でもこれは私個人の思いですけどね。そうそう、本題から大分それてしまいましたけど、私の感想、できれば直接お会いしてお伝えした方がいいような気がします。メッセージで文章にすると何となく、私が伝えたいことうまく伝わらない様な気がします。亜崎さんのご都合よい日と時間をご連絡ください。それとこれはお願いなんですけど、私一人でお会いするのは少し恥ずかしいので美津那那月、私はナッキと呼んでいます。彼女も同席することをお願いできますでしょうか? お返事はいつでもいいですよ。それでは夜遅くにすみません。失礼します」
何という慎ましい文章なんだ。
僕より文才はあるなこりゃ。なんだかこっちの方がものすごく恥ずかしい。あんな未完の様な小説を読んでもらって、感想までもらおうなんてしている。
本当にいいんだろうか?
そう考えつつも、スマホの予定表をにらみつける。
今日は金曜の夜。土日は大学は休みだし、休みの日にわざわざ出てきてもらうのは気が引けるしなぁ。
ああ、バイトもあるじゃないか。
月曜、んー、文芸部の定例集会か。まぁこれは午後だしなぁ。
やっぱり昼かなぁ。学食で一緒にランチでも食べながら……学食かぁ。できればどこか静かに話ができる店の方がいいんだろうけど。でもなぁ、今月自転車買ったから厳しいしなぁ。
680円の日替わりランチごちそうするっていう事で……。
まぁこれでいいだろう。
自己納得して返事を書いた。
「夜遅くに返事を返してすみません。体調戻られて安心しました。そうとは知らず、ご無理をさせてしまっているようですみません。もしよろしければ、月曜のお昼学食で一緒にランチを取りながらお聞きするというのはどうでしょうか? ご都合が悪ければ、後でメッセージをください。時間は、沙織さんに合わせます。いかがでしょうか」
沙織さんに比べればそっけない内容かもしれないけど、今の僕にはこれが精いっぱいだ。恐る恐る送信ボタンを押す。
しばらくしてから、返信のメッセージが来た。
「こちらこそ、お時間作ってもらってすみません。それでは13時に学食でお会いしましょうね」
そのあと送られてきた可愛らしいひよこのスタンプが、ピコピコと頭を何度も下げていた。