お隣のイケメン先輩に、365日溺愛されています。




「え、えっと、何か……?」

クラスメイトたちの視線が若干……というか、かなり痛いので、さっさと用件を聞いて立ち去ってもらわないと。


ジーッとわたしの顔を見たあと。


「……ひぇ!?な、なんですか!?」

なんでか、
いきなり先輩がわたしのほうに倒れてきた。


とっさに支えたのはいいものの、はたから見たらこれじゃ抱き合ってるみたいに見えるし!!


クラス内がザワッとしたし!!


「ちょ、ちょっ、先輩……っ!!」


「お腹……すいた」

「は、はい??」


「お腹すいた」


いや、2回も言わなくてもわかるけど。
え、まさかここに来た理由って……。


「なんかちょーだい」


お昼食べるものがないから来たんじゃ?
ってか、子どもじゃないんだから自分でどうにかしてほしい。




「購買とかでパン買ってこなかったんですか?」

「行くの面倒い」


「食堂で食べてきたら……」

「行くの面倒い」


いやいや。
ぜんぶ同じ回答じゃん。


「で、でも、わたしの教室には来てるじゃないですか。面倒いんじゃないんですか?」


「だって杞羽に会いたかったから」


えっ、なんですか。
いきなりのこの胸キュンゼリフは。


「わ、わたしに会いたかったって……」


そんなこと言われたら、フツーはドキドキしちゃう。


どこに行くのも面倒な先輩が、わざわざわたしのクラスに来てくれるなんて……ちょっぴり嬉しいような。



「なんか食べさせてくれそーだから」

「……へ?」


散々期待値を上げておいて、一気に奈落の底に突き落とされた気分。


な、何それ何それ。
わたしに会いに来た理由は何か食べさせてほしいからってか!?




「もう……。わたしがお昼食べちゃったあとだったらどうするんですか」


まだお弁当に手をつける前だったからいいけど。
いや、よくないけど。


「杞羽お弁当持ってきてる?」

「持ってきてますよ」


「それちょーだい」

「ダメです、わたしの分です」


「杞羽のケチ、帰る」

「か、帰るってどこにですか」

「家」


えぇぇ……。
気に入らないから拗ねて家に帰るとか小学生じゃん。


「わかりましたわかりました!それじゃ、わたしのお弁当分けてあげますから!」


結局、その日はお昼を一緒に食べることに。
先輩と2人でいると目立つので、あまり人がいない屋上でわたしのお弁当を半分こ。


そして翌日から、作るお弁当が1つ増えることになったのは言うまでもない。




春瀬先輩のお世話と一人暮らしを始めてから約1ヶ月ほどが過ぎた5月の上旬。


とある土曜日の日。
事件は起きた。


「う、嘘でしょ……お風呂壊れた!?」


時刻は夜の8時を過ぎて、お風呂の準備をしようとしたらなぜかお湯が出てこない。


いつもお湯が出るように設定したら、ちゃんと出るのに、出てくるのは冷たい水。


何回やり直してもお湯がまったく出てこない。


こ、これじゃ今日お風呂入れないの!?
まさかのハプニングに襲われてしまった。


大家さんに連絡しようにも、もう夜だし。
それに連絡ついたとしても、修理業者の人とか土日は休みだろうし。


うっ、だとしたらどうしよう。


わざわざ実家のほうにお風呂だけ入りに帰る?
でも、もうこんな時間だし……。


近くにお風呂屋さんとかあればいいけど、ないし。




あっ、でも待てよ。

ふと、いいことを思いついて、
急いでお風呂セットを準備して部屋を飛び出した。


向かった先はもちろん━━━━━。



「……なーに。インターホンなんか鳴らして」

「え、えっと」


「フツーに鍵使って入ってこればいーのに」



隣にいる春瀬先輩の部屋。


いちおう合鍵を持っているとはいえ、少し遅い時間なのでインターホンを押したら、面倒くさそうに扉を開けてくれた。



「あのっ、突然で申し訳ないんですけど、わたしの家のお風呂が壊れてしまって……。そ、それで先輩さえよければお風呂貸してもらえないかなぁと」


控えめに、お願いって目で訴えてみたら。


「お風呂なら今ちょうど準備したからいーよ」

「ほんとですか!?」


「ん、いーよ。いつも杞羽にはお世話してもらってるし」


はぁぁぁよかったぁぁ!!
先輩もたまにはいいとこあるじゃん!なんて。




それで、いったん部屋の中に入れてもらった。

ついさっきまで、先輩の晩ごはんを作ってあげていて自分の部屋に戻ったのに、また来ることになるとは。



「テキトーに座ってくつろいでていーよ」


そう言われても。


いつも先輩の部屋に来たときは、だいたい家事をやって帰るから、こうして何もしないで部屋に上げてもらうのは初めて。


だ、だからテキトーにとか言われても、どうしようってなっちゃう。


とりあえず、ずっと突っ立ったままも変なので、奥にあるソファの上にちょこんと座る。


「お風呂もうできてるから杞羽が先に入って」

「えっ、そこは先輩が先のほうが……」


わたしが突然押しかけて来ちゃったわけだし。



と、というか……今よくよく考えてみたら、わたしとんでもないことをしちゃってるんじゃない……!?


いくら、近くだからここに来たとはいえ、お風呂借りるなんて……なんか、こういろいろまずいような。




ほら、マンガとかでよくあるラブハプニング的なの起こっちゃったら。


だ、だって、今ここにいるのはわたしと先輩だけ。
仮にも高校生の男女2人なわけで。
何か起こってもおかしくないような。


いやいや、でも普段から先輩の家で2人で過ごしてるみたいなものだから、今さらそんなこと考えても……ね!


うぅ、でもお風呂借りるっていうのは、ちょっと……というかだいぶ緊張する。


後先考えずに、目先のことだけ考えていたせいだぁ……。


思考がプシューッと停止してしまったせいで、先輩の目の前で固まって動けないし、言葉も何も発せない。


「杞羽?」

「ひっ……!!」


いきなり下から覗き込むように、先輩の顔が飛び込んできて、声が上ずった。


「急に固まってどーかした?」

「えっ……あ、や、……えっと……」


ど、どどどうした自分……!!
変に意識し始めた途端、日本語すらまともに喋らなくなってるじゃんか。




「……もしかしてなんか意識してる?」

「へっ!?」


「安心しなよ。杞羽がお風呂に入ってる間に襲いにいくなんてラブハプニングは起こんないから」

「っ!?!?」


えっ、なんでわたしの思考ダダ漏れなの!?
無意識に口に出してないよね!?



「杞羽がもっと色っぽい身体してたら……ね」


上から下までジーッと舐めるように見て、指先がピタッとある場所で止まった。


「……残念ながら、俺もっと大きいほーがすき」

「んなっ!!」


人が気にしてるのに……!!
遠回しに胸の大きさのこと指摘するなんてデリカシーなさすぎじゃん!!


「まあ……杞羽がどうしても襲ってほしいって言うなら……」


「け、結構です!!先輩のバカッ!!」


ソファにあったクッションを顔に投げつけてやって、お風呂セットを持ってリビングを飛び出した。




「もうっ、ほんとデリカシーないんだから……!!」

ぷんすか怒りながら、バサバサッと服を脱いでお風呂の中へ。


さっきまで変に意識していたくせに今は全然。

どうせ、わたしみたいなお子ちゃま体型には興味ないだろうし。


意識して損した気分。



***



そこから30分くらいで髪や身体を洗って、お風呂から出た。

家から持ってきたバスタオルを手に取って、そのまま着替えようとしたんだけど……。


「えっ……うそ」


バスタオルと一緒に下着とかは同じ袋に入れてきたのに、部屋着だけ袋を分けたせいで、それをソファの上に置いてきたことに今さら気づいた。


ど、どどどうしよう。
下着姿でうろうろするわけにはいかないし。


先輩にここまで持ってきてもらう……でも、さっきクッション投げつけちゃったから怒って持ってきてくれないかもしれない。