次の土曜日。
純平にはめぐみと遊びに行って来ると嘘をつき、病院に行った。
めぐみは、待合室にいる間、ずっとわたしの手を握っていてくれた。
ありがとう、めぐみ。
あなたのおかげで、不安が和らいでいくよ。
「椎名さん、椎名清美さん。一番の診察室へお入り下さい」
「それじゃ、行って来る」
「うん。頑張って」
ドキドキした。
期待したい。
でも怖い。
もし違っていたら……。
診察は、十五分ほどで終了。
扉を開けると、待合室にいるめぐみと目が合った。
「どうだった?」
めぐみが緊張した面持ちでわたしを見ている。
黙ってめぐみの横に腰掛ける。
「ねえ、どうだったのよ」
「……出来てた。もう三か月だって」
「えっ! 本当?」
「うん。本当!」
「清美、良かったねーーー」
めぐみが涙ぐんでいる。
わたしも同じだ。
赤ちゃんが出来たんだ。
わたし、ママになれるんだ。
「めぐみ」
涙が溢れる。
どれだけこの日を待ち望んでいたか。
病院を出たけど、半ば放心状態だった。
信じられない。
それでも自然とお腹に手を当ててしまう。
一旦気持ちを落ち着かせる為に、カフェでお茶する事にした。
「帰ったら椎名さんに言うの?」
「うん。でももう少し黙っていようかな?」
「ダメだよ。ちゃんと言いなさい」
「そうだね」
「あーあ。清美も産休取るのかぁ。寂しいなぁ」
「まだ先の話よ」
「よし決めた! わたし逆プロポーズする!」
「えっ?」
「だってさぁ、奈々美も辞めちゃったし、そのうち清美もいなくなるんだよ。わたしも結婚してママになる」
「ちょっと、マジで言ってる?」
「当たり前でしょ。このままだったら、彼ずっと言ってくれなさそうだもん。客商売してて社交的なんだけど、そういうところはシャイなのよね。よし、早速今晩決行よ」
「そ、そんなに早く?」
「善は急げよ」
「が、頑張ってね」
いやぁ。
めぐみの発言には驚いた。
有言実行の彼女の事だ。
今晩プロポーズするのは間違いない。
明日、どうなったか聞くのが楽しみだ。
歩きながら今までのいろんな事が思い浮かんで来る。
いじめられて死のうとした事も、もう心の奥底にしまおう。
この子を授かった奇跡に感謝し、今をそしてこれからを精一杯生きよう。
「ただいま」
「お帰り。めぐみちゃんとのデート、楽しかった?」
「うん。とっても」
「本当に楽しかったんだね。顔が明るい。ここんとこ気分が悪そうにしてたから心配してたんだ」
「純平、聞いて。めぐみ、今晩逆プロポーズするんだって」
「今晩? またどうして? もう少ししたら、彼氏さんがプロポーズしてくれるんじゃないの?」
「待てないそうよ。ほら、奈々美もいなくなっちゃったし、そのうちわたしもいなくなるから寂しいんだって」
「えっ? どういう意味? 会社辞めたいの?」
「そうじゃなくって……純平、わたし達もうすぐパパとママになるんだよ」
「えっ? それってもしかして」
「わたし達の事、守ってね」
お腹に当てた手に目をやった純平が、再びわたしの顔を見た時には、崩れるような笑顔になっていた。
「清美!」
「ち、ちょっと純平苦しいよ」
「あ、ごめん」
慌ててわたしから離れる純平。
そんな彼の首に、優しく腕を回した。
「良かった。本当に良かった。ありがとう清美」
「お礼を言うのはわたしの方よ。純平、わたしを愛してくれて本当にありがとう」
翌朝会社に行くと、わたしを見つけためぐみが飛んで来た。
「めぐみ、どうだった?」
「成功!」
「おめでとう! やったね。これでめぐみも寂しくないね」
「ありがとう」
「で、新居はどうするの?」
「彼の家に引っ越す。わたしの家より広いからね」
「そうなんだね」
「清美の方はどうだった? 椎名さんに言った?」
「うん。とっても喜んでくれた」
「そう。本当におめでとう」
「めぐみもね」
「さて、これから子作りに励んで、わたしも早く産休取らなきゃ」
「めぐみったら、気が早すぎ!」
「善は急げよ」
「それ、昨日も聞いた」
という事で、倉庫の仕事は妊婦には無理があって、ずいぶんと楽をさせてもらいながら続けた。
めぐみも、逆プロポーズを成功させた一週間後に入籍し、現在は新居から電車通勤。
それでも途中で気分が悪くなって下車する事もあった。
そうなんです!
めぐみも妊娠しました。
予定日は来年の五月初め。
わたし達の子どもと同級生にって言うのを狙っていたみたいだけど、それは絶対無理でしょ。
そうするなら、籍を入れる前から妊娠してないとね。
毎日が目まぐるしく過ぎていく。
それでも未来には希望しかない。
早くあなたに会いたいよ。
日ごとに大きくなるお腹に手を当てる。
「あ、動いた」
ぼくはここにいるよ。
ママの声もパパの声も聴いてるよ。
早く会いたいよ。
お腹の中の息子が、そう言っているように思えた。
予定日は十月二十日。
外ではまだ蝉が忙しなく鳴いている。
終わり
純平にはめぐみと遊びに行って来ると嘘をつき、病院に行った。
めぐみは、待合室にいる間、ずっとわたしの手を握っていてくれた。
ありがとう、めぐみ。
あなたのおかげで、不安が和らいでいくよ。
「椎名さん、椎名清美さん。一番の診察室へお入り下さい」
「それじゃ、行って来る」
「うん。頑張って」
ドキドキした。
期待したい。
でも怖い。
もし違っていたら……。
診察は、十五分ほどで終了。
扉を開けると、待合室にいるめぐみと目が合った。
「どうだった?」
めぐみが緊張した面持ちでわたしを見ている。
黙ってめぐみの横に腰掛ける。
「ねえ、どうだったのよ」
「……出来てた。もう三か月だって」
「えっ! 本当?」
「うん。本当!」
「清美、良かったねーーー」
めぐみが涙ぐんでいる。
わたしも同じだ。
赤ちゃんが出来たんだ。
わたし、ママになれるんだ。
「めぐみ」
涙が溢れる。
どれだけこの日を待ち望んでいたか。
病院を出たけど、半ば放心状態だった。
信じられない。
それでも自然とお腹に手を当ててしまう。
一旦気持ちを落ち着かせる為に、カフェでお茶する事にした。
「帰ったら椎名さんに言うの?」
「うん。でももう少し黙っていようかな?」
「ダメだよ。ちゃんと言いなさい」
「そうだね」
「あーあ。清美も産休取るのかぁ。寂しいなぁ」
「まだ先の話よ」
「よし決めた! わたし逆プロポーズする!」
「えっ?」
「だってさぁ、奈々美も辞めちゃったし、そのうち清美もいなくなるんだよ。わたしも結婚してママになる」
「ちょっと、マジで言ってる?」
「当たり前でしょ。このままだったら、彼ずっと言ってくれなさそうだもん。客商売してて社交的なんだけど、そういうところはシャイなのよね。よし、早速今晩決行よ」
「そ、そんなに早く?」
「善は急げよ」
「が、頑張ってね」
いやぁ。
めぐみの発言には驚いた。
有言実行の彼女の事だ。
今晩プロポーズするのは間違いない。
明日、どうなったか聞くのが楽しみだ。
歩きながら今までのいろんな事が思い浮かんで来る。
いじめられて死のうとした事も、もう心の奥底にしまおう。
この子を授かった奇跡に感謝し、今をそしてこれからを精一杯生きよう。
「ただいま」
「お帰り。めぐみちゃんとのデート、楽しかった?」
「うん。とっても」
「本当に楽しかったんだね。顔が明るい。ここんとこ気分が悪そうにしてたから心配してたんだ」
「純平、聞いて。めぐみ、今晩逆プロポーズするんだって」
「今晩? またどうして? もう少ししたら、彼氏さんがプロポーズしてくれるんじゃないの?」
「待てないそうよ。ほら、奈々美もいなくなっちゃったし、そのうちわたしもいなくなるから寂しいんだって」
「えっ? どういう意味? 会社辞めたいの?」
「そうじゃなくって……純平、わたし達もうすぐパパとママになるんだよ」
「えっ? それってもしかして」
「わたし達の事、守ってね」
お腹に当てた手に目をやった純平が、再びわたしの顔を見た時には、崩れるような笑顔になっていた。
「清美!」
「ち、ちょっと純平苦しいよ」
「あ、ごめん」
慌ててわたしから離れる純平。
そんな彼の首に、優しく腕を回した。
「良かった。本当に良かった。ありがとう清美」
「お礼を言うのはわたしの方よ。純平、わたしを愛してくれて本当にありがとう」
翌朝会社に行くと、わたしを見つけためぐみが飛んで来た。
「めぐみ、どうだった?」
「成功!」
「おめでとう! やったね。これでめぐみも寂しくないね」
「ありがとう」
「で、新居はどうするの?」
「彼の家に引っ越す。わたしの家より広いからね」
「そうなんだね」
「清美の方はどうだった? 椎名さんに言った?」
「うん。とっても喜んでくれた」
「そう。本当におめでとう」
「めぐみもね」
「さて、これから子作りに励んで、わたしも早く産休取らなきゃ」
「めぐみったら、気が早すぎ!」
「善は急げよ」
「それ、昨日も聞いた」
という事で、倉庫の仕事は妊婦には無理があって、ずいぶんと楽をさせてもらいながら続けた。
めぐみも、逆プロポーズを成功させた一週間後に入籍し、現在は新居から電車通勤。
それでも途中で気分が悪くなって下車する事もあった。
そうなんです!
めぐみも妊娠しました。
予定日は来年の五月初め。
わたし達の子どもと同級生にって言うのを狙っていたみたいだけど、それは絶対無理でしょ。
そうするなら、籍を入れる前から妊娠してないとね。
毎日が目まぐるしく過ぎていく。
それでも未来には希望しかない。
早くあなたに会いたいよ。
日ごとに大きくなるお腹に手を当てる。
「あ、動いた」
ぼくはここにいるよ。
ママの声もパパの声も聴いてるよ。
早く会いたいよ。
お腹の中の息子が、そう言っているように思えた。
予定日は十月二十日。
外ではまだ蝉が忙しなく鳴いている。
終わり