福岡に戻って一週間が経った。
金曜日の夜から日曜日の夜まで、純平さんのマンションで過ごす生活がまた始まった。
本当は同棲したいくらいの気持ちだった。
毎日一緒にいたい。
でも、結婚するまではとブレーキを掛けていた。
「清美、おいで」
彼がベッドに誘っている。
その声に引き寄せられるように近づく。
「愛してるよ」
「わたしも愛してる」
いつものように、わたしの体のいたるところにキスを落として来る。
それだけで既にわたしの大切な部分は潤っている。
そこへゆっくりと入ってくる彼。
その動きはどんどん加速し、途中で何かが弾けるように快楽の渦に飲み込まれてしまう。
「うっ……」
尽きる前に彼が声を漏らす。
今までで一番はっきり聞こえる声で。
そして、どさりとわたしの上にのしかかって来た。
息をする胸が大きく膨らみしぼむ様子が伝わって来る。
まるで、全力疾走し終わった時のようだ。
「純平、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
そこで、ガバっとわたしから離れる彼。
「えっ? どうかした?」
驚いたような表情でわたしを見下ろす彼。
その表情は、驚きから笑顔に変化する。
「清美、今俺の事、純平って呼んだよな?」
「えっ?」
そう言えば……
呼んだかもしれない。
完全に無意識だったけど。
「ねえ、もう一回呼んでみて」
「嫌よ、恥ずかしい」
「いいじゃん、言ってよ。俺、すごく今、胸がときめいた」
えっ?
純平って呼ばれただけで?
この人、年が明けたら三十歳だよね?
やだ、何かかわいい。
社内で彼を見かけてファンになり、付き合いだしてからも頼れる素敵な男の人って認識だった。
その彼が、純平って呼び捨てされただけでときめいた?
何だか、わたしまでくすぐったい気持ちになってきたよ。
「純平……」
「あ~、それいい」
わたしの横に仰向けになった彼が悶えてる。
「純平」
「く~、もっと言って」
「純平」
何、これ。
わたしの知らない彼が飛び出しちゃったよ。
「あ、でもさ、安田さんからは最初から純平って呼ばれてるよね?」
「そうだな。あいつは、彼氏が俺の事を純平って言ってたからその流れで同じように呼ぶようになったから何とも思わなかった。だけど、明日から意識してしまうかも」
いつものように彼の車で自宅まで送ってもらう。
別れ際のこの瞬間がたまらなく切ない。
数時間後には、また迎えに来てくれるとわかっていても。
朝が来た。
会社に着き、いつものように純平とエレベーターに乗り込むと、向こうから小走りでやって来る安田さんの姿が目に入った。
「ちょっと純平、開けといてー」
「うっ……」
わっ、夕べ言ってたけど、もしかして今のに反応してる?
「ありがと、純平」
「あ、う、うん」
「おはようございます、安田さん」
「おはよう、小田さん」
「今日もお綺麗ですね」
「そう? 嬉しいわ。ところで純平、どうかしたの?」
「えっ?」
「何だか様子が変だけど」
理由を知ってるわたしは、笑いを我慢するのに必死だった。
「ねぇ、純平ってば」
「何でも無いよ!」
「何それ」
挙句の果てにそっぽを向いて不機嫌な顔をする純平。
と言う事で、更衣室で理由を説明したわたしは、笑い転げる安田さんを目撃する事となる。
更衣室にいた他の社員も、普段あまり笑わない安田さんの大笑いに、驚きながらもしばらくすると頬を緩ませていた。
「純平、かわいいね」
「でしょ? わたしもそう思います」
「あの純平がねぇ。よし、これでしばらく笑えそう」
「えっ? まだ言うつもりですか?」
「当たり前じゃない。こんな面白い事、久しぶりよ。って言うか、わたし前からずっと純平って呼んでるんだよね。って事は、これからもずっと言うんだわ。大丈夫? 純平。壊れたりしない?」
「大丈夫なんじゃないですか。それに、そのうち慣れてくると思いますよ」
「そうよね? それじゃ、早速からかってこよ~と」
そう言うと、安田さんはスキップしながら更衣室を出て行った。
急いで作業服に着替えたわたしは、総務部にいる純平を廊下から探す。
いたいた。
えっ!
安田さん、総務にまで押しかけてからかってるよ。
さすがに廊下まで何を言っているのかは聞こえなかったけど、安田さんが笑ってる。
周りに総務部の人がたくさんいるのに、そんな事お構いなしに笑ってる。
「ちょっと、清美、あの二人どうなってるの?」
わたしが見ている事に気づいたのか、奈々美が飛び出して来た。
「うん、ちょっとね。気にしないで」
「安田さんが純平純平って連呼して、椎名さんが呼ぶなって怒ってるよ?」
「いいのいいの。そのうち安田さんも飽きるでしょ」
「喧嘩してるわけじゃないよね?」
「大丈夫」
半信半疑な顔をしたまま、奈々美は事務所の中へと戻って言った。
「安田さんがあんなに笑ってるの、俺初めて見たよ」
「俺もだよ。今まで怖い人だって思ってたけど、案外楽しい人なのかもよ」
「そうだな。それに美人だしさ、俺今度飲みに誘ってみようかな」
「おっ、いいね。そん時は俺も誘ってくれよ」
そんな話をしながら事務所から出て行く男性社員。
わたしも最初の頃は安田さんの事、怖かったもんな。
だけど、彼女の事を知ってみると、とてもいい人。
物事をはっきり言うけど、間違った事は言ってないんだよね。
「さてと」
今日も頑張って働きますか。
わたしは自分の居場所の倉庫に続く扉を開けた。
金曜日の夜から日曜日の夜まで、純平さんのマンションで過ごす生活がまた始まった。
本当は同棲したいくらいの気持ちだった。
毎日一緒にいたい。
でも、結婚するまではとブレーキを掛けていた。
「清美、おいで」
彼がベッドに誘っている。
その声に引き寄せられるように近づく。
「愛してるよ」
「わたしも愛してる」
いつものように、わたしの体のいたるところにキスを落として来る。
それだけで既にわたしの大切な部分は潤っている。
そこへゆっくりと入ってくる彼。
その動きはどんどん加速し、途中で何かが弾けるように快楽の渦に飲み込まれてしまう。
「うっ……」
尽きる前に彼が声を漏らす。
今までで一番はっきり聞こえる声で。
そして、どさりとわたしの上にのしかかって来た。
息をする胸が大きく膨らみしぼむ様子が伝わって来る。
まるで、全力疾走し終わった時のようだ。
「純平、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
そこで、ガバっとわたしから離れる彼。
「えっ? どうかした?」
驚いたような表情でわたしを見下ろす彼。
その表情は、驚きから笑顔に変化する。
「清美、今俺の事、純平って呼んだよな?」
「えっ?」
そう言えば……
呼んだかもしれない。
完全に無意識だったけど。
「ねえ、もう一回呼んでみて」
「嫌よ、恥ずかしい」
「いいじゃん、言ってよ。俺、すごく今、胸がときめいた」
えっ?
純平って呼ばれただけで?
この人、年が明けたら三十歳だよね?
やだ、何かかわいい。
社内で彼を見かけてファンになり、付き合いだしてからも頼れる素敵な男の人って認識だった。
その彼が、純平って呼び捨てされただけでときめいた?
何だか、わたしまでくすぐったい気持ちになってきたよ。
「純平……」
「あ~、それいい」
わたしの横に仰向けになった彼が悶えてる。
「純平」
「く~、もっと言って」
「純平」
何、これ。
わたしの知らない彼が飛び出しちゃったよ。
「あ、でもさ、安田さんからは最初から純平って呼ばれてるよね?」
「そうだな。あいつは、彼氏が俺の事を純平って言ってたからその流れで同じように呼ぶようになったから何とも思わなかった。だけど、明日から意識してしまうかも」
いつものように彼の車で自宅まで送ってもらう。
別れ際のこの瞬間がたまらなく切ない。
数時間後には、また迎えに来てくれるとわかっていても。
朝が来た。
会社に着き、いつものように純平とエレベーターに乗り込むと、向こうから小走りでやって来る安田さんの姿が目に入った。
「ちょっと純平、開けといてー」
「うっ……」
わっ、夕べ言ってたけど、もしかして今のに反応してる?
「ありがと、純平」
「あ、う、うん」
「おはようございます、安田さん」
「おはよう、小田さん」
「今日もお綺麗ですね」
「そう? 嬉しいわ。ところで純平、どうかしたの?」
「えっ?」
「何だか様子が変だけど」
理由を知ってるわたしは、笑いを我慢するのに必死だった。
「ねぇ、純平ってば」
「何でも無いよ!」
「何それ」
挙句の果てにそっぽを向いて不機嫌な顔をする純平。
と言う事で、更衣室で理由を説明したわたしは、笑い転げる安田さんを目撃する事となる。
更衣室にいた他の社員も、普段あまり笑わない安田さんの大笑いに、驚きながらもしばらくすると頬を緩ませていた。
「純平、かわいいね」
「でしょ? わたしもそう思います」
「あの純平がねぇ。よし、これでしばらく笑えそう」
「えっ? まだ言うつもりですか?」
「当たり前じゃない。こんな面白い事、久しぶりよ。って言うか、わたし前からずっと純平って呼んでるんだよね。って事は、これからもずっと言うんだわ。大丈夫? 純平。壊れたりしない?」
「大丈夫なんじゃないですか。それに、そのうち慣れてくると思いますよ」
「そうよね? それじゃ、早速からかってこよ~と」
そう言うと、安田さんはスキップしながら更衣室を出て行った。
急いで作業服に着替えたわたしは、総務部にいる純平を廊下から探す。
いたいた。
えっ!
安田さん、総務にまで押しかけてからかってるよ。
さすがに廊下まで何を言っているのかは聞こえなかったけど、安田さんが笑ってる。
周りに総務部の人がたくさんいるのに、そんな事お構いなしに笑ってる。
「ちょっと、清美、あの二人どうなってるの?」
わたしが見ている事に気づいたのか、奈々美が飛び出して来た。
「うん、ちょっとね。気にしないで」
「安田さんが純平純平って連呼して、椎名さんが呼ぶなって怒ってるよ?」
「いいのいいの。そのうち安田さんも飽きるでしょ」
「喧嘩してるわけじゃないよね?」
「大丈夫」
半信半疑な顔をしたまま、奈々美は事務所の中へと戻って言った。
「安田さんがあんなに笑ってるの、俺初めて見たよ」
「俺もだよ。今まで怖い人だって思ってたけど、案外楽しい人なのかもよ」
「そうだな。それに美人だしさ、俺今度飲みに誘ってみようかな」
「おっ、いいね。そん時は俺も誘ってくれよ」
そんな話をしながら事務所から出て行く男性社員。
わたしも最初の頃は安田さんの事、怖かったもんな。
だけど、彼女の事を知ってみると、とてもいい人。
物事をはっきり言うけど、間違った事は言ってないんだよね。
「さてと」
今日も頑張って働きますか。
わたしは自分の居場所の倉庫に続く扉を開けた。