日曜日。

俺の目の前に、御年90歳だというおばあさんが座っている。

おばあさんは俺を見て。

「祐太郎が女性の方を連れてくるなんて・・・」

と、言って。思いっきり俺のことを女性だと勘違いした。

「ばあちゃん、違うよ。コイツ、男!」

祐太郎が訂正すると、おばあさんは「まぁ、まぁ」と言って。

「ごめんなさいね、顔立ちが綺麗だからてっきり女性の方かと…」

「大丈夫です」

祐太郎に言われるがまま、連れてこられたのは都内にある新築の一軒家だった。

二世帯住宅らしく、「まずは、ばあちゃんな」と言われて。

何故か祐太郎のおばあちゃんの家に来ている。

「お名前は何て、言うのかしら?」

90歳にはとても思えない、はっきりとした口調で。

気品の溢れる姿に。

本当に祐太郎のおばあちゃんかと、疑ってしまう。

「あ、福王子真一郎です」

「ふくおうじさん? それは本名なのかしら」

「あ、本名です」

それを聴いていた祐太郎が笑い出した。

コイツはさっきから全然、喋ろうとしない。

何で、俺を連れてきたんだろう?

祐太郎のおばあさんが淹れてくれたお茶を飲みながら。

おばあさんと喋っていると。

玄関から「祐太郎!」という女性の大声が聞こえた。

「ついに、王子を呼んだって?」

入ってきたのは、40代くらいの眼鏡をかけた女の人と。

小学生の高学年かな? 女の子だった。

すぐにこの2人は親子だなってわかった。

「あー、やっぱり王子よね。福王子君よね、覚えてる? 昔、会ったことがあるんだけど」

「えっ・・・」

女の人が近寄って、じっと俺を見る。

俺は、「えーと…」と黙ってしまう。

昔から人の名前と顔を覚えるのが苦手なんだ。

「シン、俺の姉ちゃんと姪っ子の、きららだよ」

祐太郎が助け舟を出してくれた。

「ああ、お姉さん!」

昔、祐太郎の家へ遊びに行ったときに一度だけ会ったっけ。

祐太郎のお姉さんは俺の顔をじーと見た。

そして、娘のきららちゃんもじーと俺の顔を見た。

「やっと、モデルを見つけた!!」

祐太郎のお姉さんはいきなり叫ぶと。

手に持っていたノートに何かを書き始めた。

「ねぇ、お兄さん。王子なんでしょ?」

と、きららちゃんは。俺の手を引っ張る。

「え?」

祐太郎を見ると。

「ああ、俺の姉ちゃん。少女漫画家なんだ。姉ちゃん、俺の言うこと間違ってなかっただろ!」

「あんたみたいなゴリラにこんなイケメンの友達がいるだなんて、誰が信じられるかっての!」

姉弟のやりとりに頭の中がハテナマークでいっぱいになった。