北里 乃愛《キタザト ノア》、16才。
同じクラスの男の子…四谷 凉《ヨツヤ リョウ》君とお付きあいしてます!
「凉くん、一緒に帰ろ?」
「うん、乃愛ちゃん、帰ろう」
手を繋いで教室を出る。
乃愛は今日も彼氏とラブラブなんです!
「…あれ?」
校門を出た時、乃愛はそれに気づいた。
「どうしたの乃愛ちゃん?」
「これ、雪かなぁ?」
「…あ、ホントだ…」
チラチラと白いものが空から降ってくる。
手にのせたら、ふわりと溶けていった。
「初雪だね、乃愛ちゃん」
凉くんが女の子みたいに可愛い顔で笑う。
それが可愛すぎて、思わず凉くんのほっぺにちゅーをした。
ひんやり冷たい凉くんのほっぺ。
「わ、乃愛ちゃん?」
「えへへ…ダメだった?」
「ううん…でも、僕もお返ししたいなぁー」
「ん…」
くいっとアゴを持ち上げられて、乃愛より少し背の高い凉くんとちゅーをした。
雪の舞い散る中でのちゅー。
心がポカポカと温かい。
「…行こっか、乃愛ちゃん」
「…うん、凉くん」
乃愛達は学校から離れていく。
二人で会話をしながら帰り道を歩く。
「くちゅんっ」
「わ、乃愛ちゃん風邪ひいちゃうよ?…これ、貸してあげる」
くしゃみをしてしまった乃愛。
ふわり、と首にかけられたのは、凉くんの黒いマフラー。
「え、でも…凉くんが寒くなっちゃうよ?」
「だいじょーぶ、凉くんは男の子ですから」
「乃愛だけ温かいの悪いよ~やっぱり返…」
「だーめ」
そう言って凉くんは乃愛の頭を撫でてくれた。
凉くんの手、冷たい…。
雪も降ってるし、寒いよね。
乃愛は凉くんに抱きついた。
「…乃愛…ちゃん?」
凉くんが目をぱちくりさせる。
乃愛は凉くんをぎゅうーとしながら言った。
「乃愛は凉くんのマフラーで温かいから、凉くんは乃愛が温めてあげるの!」
「…乃愛ちゃん」
凉くんが目を細める。
凉くんの手が乃愛の背中にまわされた。
「ありがとう乃愛ちゃん…温かいよスゴく」
「えへへ…」
「…雪、止まないね」
「その方がもっと寒くなって、もっと凉くんとくっついていられるから、乃愛嬉しいよ!」
乃愛が笑うと、凉くんも「そっかぁ…確かにそうだね」と呟いた。
雪が段々と大粒になってくる。
乃愛達はそれでもゆっくりと帰り道を歩いた。
少しでも長く一緒にいたいから。
「あ、自販機あるね…僕 何か買ってくるよ」
「乃愛ミルクティーが飲みたいな」
「了解」
凉くんがホットのミルクティーを買って、乃愛に渡してくれる。
「凉くんはコーヒー?」
「うん、好きなんだ」
「ブラックだ…凉くんカッコいい」
ブラックのコーヒーなんて、乃愛は苦すぎて飲めない。
凉くんはスゴいなぁ。
「乃愛ちゃん?飲まないの?」
温かくて美味しいよ。
凉くんがコーヒーを飲んでそう言った。
乃愛もキャップを開けてミルクティーを飲む。
甘くて安心する…凉くんといる時みたい。
…そうだ。
「凉くん、コーヒー苦くない?」
「んー…ちょっと苦いかな」
「…甘いの、欲しくない?」
「…今したら苦いよ?」
「乃愛は今、甘いから良いもん…ね、凉くん」
ちゅう、しよう?
上目使いで、唇を指差す。
凉くんの目が光ったような気がした。
―――じゃあ、お言葉に甘えて。
ちゅ…。
口の中で、甘いのと苦いのが混じりあう。
「…乃愛達、ちゅーばっかしてるね」
「…嫌?」
「んーん…大好きだよ」
「僕も、大好きだよ…乃愛ちゃんとのキスも、乃愛ちゃんも…」
「乃愛も!」
乃愛が笑うと、凉くんも笑った。
初雪の舞う中で、乃愛達はもう一度ちゅーをした。
クリスマスがやってきた。
乃愛は今年も凉くんのお家に遊びに来ている。
仕事の忙しいお父さんと二人暮らしの凉くんのお家。
今年もお父さんはお仕事らしく、お家には凉くんと乃愛だけだった。
「クリスマスツリーの飾り付け、終わったよ~!」
「わぁ…スゴい!乃愛ちゃんはさすが、センスがいいよね」
「えへへ…」
凉くんから頭をぽんぽんされる。
小さめのクリスマスツリーは乃愛の渾身の飾り付けでピカピカと輝いていた。
「乃愛ちゃん、そろそろご飯食べようか」
「うん、凉くんの手作り美味しいから大好き」
「…好きなのは僕の作ったご飯だけかな?」
「凉くんも大好きでーす!」
「はい、よろしい」
凉くんとじゃれあいながらテーブルにお皿と料理を並べていく。
自家製チキンに、同じく自家製パンのサンドイッチ、手作りローストビーフ……どれもスゴく美味しそう。
二人で席につき、いただきますをした。
「はい、凉くんあーん…」
切り分けられたローストビーフを凉くんのお口に運ぶ。
「ん…、ありがとう乃愛ちゃん」
もぐもぐと凉くんのお口が動く。
乃愛もお口を開けてあーんをねだった。
「ふふっ…乃愛ちゃんは可愛いなぁ…ほら、あーん?」
「はむっ……美味しい~」
「あー…良かった。張り切って作ったかいがあったよ」
「これからも乃愛のためだけにお料理作ってね?」
「もちろん」
凉くん大好き!
乃愛は凉くんに抱きついた。
「あは、僕も乃愛ちゃん大好き」
「乃愛も、凉くんのためだけにお菓子作り続けるからね?…今日のクリスマスケーキも頑張ったんだから!」
乃愛の得意な事はお菓子作り。
付き合いだしてからは毎年、凉くんと過ごすクリスマスには乃愛がケーキを作っていた。
昔はホットケーキミックスを使った簡単なカップケーキしか作れなかったけど、今は違う。
お店のと変わらないくらいのケーキだって作れちゃうんだから。
「今年は凉くんの好きなタルトにしたんだよ。期待しててね!」
「本当?嬉しいな、覚えててくれたんだ」
「えへへ、ほめて~」
「よしよし、乃愛ちゃんはスゴいね」
乃愛、凉くんからほめられるのって大好き。
来年もタルトにしようかなぁ。
凉くんの喜ぶお顔が見たいもん!
晩ご飯を食べ終わり、凉くんがケーキを冷蔵庫から取り出して切り分けてくれた。
乃愛作のフルーツタルトを食べていると、凉くんが乃愛を手招きした。
「乃愛ちゃん、ちょっといいかな?」
「なぁに、凉くん」
凉くんに近づき、首をかしげる。
「これ、今年のプレゼントです」
凉くんが乃愛の手を取った。
左手の薬指に…冷たい感触。
見てみると、そこにはシンプルな指輪がはめられていた。
「…凉…くん…これ」
「ごめんね。これはまだ、安物だけど…いつかもっと豪華で乃愛ちゃんに似合う指輪を送るから…いつか僕のお嫁さんになってもらえますか?」
乃愛の目から涙がこぼれる。
大好きな凉くんからの指輪…。
こんな素敵なプレゼント、予想してなかった。
「なる…!凉くんのお嫁さんに…なりたい」
「っ…良かったぁ…」
胸を撫で下ろすように、凉くんが息を吐いた。
「断られたらどうしようかと…緊張しちゃったよ」
「断るわけないよ!凉くんありがとうっ…!」
乃愛は指輪をそっと撫でながら呟いた。
「大切にするね、この指輪…」
「…ん…ありがとう、乃愛ちゃん」
ちゅ、と凉くんがほっぺに口づける。
それがくすぐったくて、身をよじった。
目が合ってぎゅ、と二人で抱き締め合う。
16才のクリスマスは、未来を描くような…そんな素敵な思い出と共に過ぎていった。
バレンタインは、乃愛にとって戦争だ。
誰よりも早く、恋人である凉くんにチョコを渡す…それが今日のミッション。
最優先事項。
「できた!」
ナッツとオレンジピール入りのチョコブラウニー。
凉くんが去年、美味しいって言ってくれた物を今年も作ってみた。
凉くん、喜んでくれるかなぁ?
透明の袋とピンクのリボンで綺麗にラッピングして、小さな紙袋に入れる。
「あ、そろそろ行かなきゃ…」
乃愛は急いで家を出た。
「凉くん!おはよ!」
「乃愛ちゃん、おはよう」
学校に向かう途中、凉くんの後ろ姿を見つけて声をかける。
乃愛は早速、作ってきたチョコブラウニーを渡そうと鞄から紙袋を―――出そうとして、ある事に気づいた。
え…、ない…?
鞄には、ブラウニーを入れた紙袋がなかった。
―――そうだ!
紙袋に入れた時、その紙袋を鞄に入れるのを忘れたんだ…。
「?乃愛ちゃん、どうしたの?」
「あ…あはは、なんでもないよ!」
「そう?」
首をかしげる凉くん。
…どうしよう。
もう学校は目と鼻の先だった。
校門を通り、靴箱に着く。
凉くんの靴箱には、既にたくさんのチョコが入れられていた。
「…わ、ビックリした…」
凉くんが一つ一つ、手に持って回収する。
「凉くん…それ…」
「ん?」
受けとる…の?
小さく呟いた乃愛に、凉くんは一瞬キョトンとして…ニコリとほほ笑んだ。
「嬉しいなぁ」
「え?」
「乃愛ちゃんが焼きもちやいてくれてる」
凉くんはチョコを全て回収すると、生徒会室の近くに置かれた大きめのボックスへ全て投入した。
「凉くん…これ、なあに?」
「バレンタイン限定、チョコレートボックスだって…僕も最近知ったんだけど、ここに入れられたチョコは希望者が自由に持っていっていいんだって」
「え?…何のために…?」
「ほら、チョコが苦手な人とか、貰えないって人がいるでしょ?…でもせっかくの好意を捨てるわけにはいかない。だからこのボックスに入れて、誰か他の人に貰って食べてもらおうっていうのが目的らしいよ…画期的だよね」
「へぇ…」
えっと…よく分からないけど、とにかく、凉くんは他の子からのチョコを貰わないって事だよね。
乃愛はホッとする。
「―――で、乃愛ちゃん?」
「…ん?」
凉くんが両手を乃愛に差し出した。
「乃愛ちゃんは僕にチョコレート、くれないのかな?」
こてんと首をかしげながら、凉くんが言った。
これは…。
…ほ、本当の事…言わなきゃ、だよね?
乃愛は両手を合わせて、ごめんなさい!と叫んだ。
「あははっ…乃愛ちゃんてば忘れんぼうだな」
「うー…ごめんなさい、凉くん…」
張り切ってチョコを作った事。
そのチョコを忘れてきた事。
一番に凉くんに渡したかった事。
全部を涙目になりながら話し終えた乃愛を、凉くんは笑って許してくれた。
「乃愛ちゃん、今日も僕に送らせてね。その時にチョコも貰えたら嬉しいかな」
「うん!もちろんだよ…ごめんね、凉くん」
「もう、何回も謝らないの」
「だって…バレンタインにチョコを忘れてくるなんて…彼女失格だよ…」
「乃愛ちゃんは僕の立派な彼女です…ほら、落ち込まないで?」
そう言って乃愛の頭を撫でる凉くん。
「凉くん優しいっ…好きぃ…!」
「あはは…僕も好きだよー、乃愛ちゃん」
廊下の真ん中でぎゅーと凉くんに抱きつく。
凉くんは嫌がるそぶりも見せずに抱き締め返してくれた。
何か、チョコの他に凉くんにしてあげられる事はないのかな…。
乃愛は考える。
そして、ある有名な歌を思い出した。
「凉くん!」
「ん、なに乃愛ちゃ―――!?」
ちゅ。
凉くんの唇に、乃愛の唇が重なる。
「…えへへ…チョコの代わりに…なる?」
ふにゃりと笑えば、凉くんが真っ赤なお顔で乃愛を抱き締めた。
「もー…僕の心臓、もたないって…」
「凉くんお顔真っ赤だ…」
「見ないで、乃愛ちゃん…僕、今スゴくカッコつかない顔してるから…」
「えー、見たいなぁ」
「だーめーでーすー!」
乃愛を胸に抱き締めながら、凉くんが言った。
今年のバレンタインも、大好きな凉くんと甘い時間を過ごせて良かった…。
チョコを忘れたショックは、もう忘れてしまっていた。