イルジアでの楽しい日々は、予定通り一ヶ月半の滞在を経て終わりを迎えた。
セレーノ島を発つ日、ナタリアは船のデッキで遠ざかる島を見ながらポロポロと涙を流した。
隣に立っていたイヴァンは驚きながらも指で彼女の涙をぬぐってやり、困ったように笑う。
「旅行から帰るのが寂しくて泣くだなんて、お前は子供だな。ほら、泣くな。みなが見てるぞ」
ナタリアは恥ずかしそうに頷いてハンカチで目もとを拭くと、イヴァンにそっと身を寄せてきた。
「みっともないところをお見せしてごめんなさい。でも……とても楽しかったのです。だから、寂しくて」
よほどイルジアが気に入ったのだなと思い、イヴァンはやはり連れてきてやってよかったと目を細めた。
「そうか、そんなにトリースの街やセレーノ島が気に入ったのならばまた来よう。古代遺跡だって白い砂浜だって、何度だって連れてきてやる」
肩を抱き寄せてそう言うと、ナタリアはイヴァンの服の裾をギュッと掴みながら小さく首を横に振った。
「……違うのです。確かにイルジアはどこも素敵でした。けれど私は……イヴァン様と旅行できたことがとても楽しかったのです。新しい思い出をあなたとたくさん作れたこの新婚旅行は、私の一生の宝物になります。ありがとうございます、イヴァン様。私と結婚して、思い出を作ってくださって」