春生まれの僕は、幼いころから春が好きだった。

道路沿いに咲く桜の花が暖かい風に吹かれて舞うその姿が好きだった。
薄い桃色の小さな花びらが、僕にはずっと儚かった。
手の届かない何かを思わせるその花びらが風には抗えず舞う、それがずっと儚かった。

そんな風に僕も、僕の世界で一番儚いものでありたいと願った。

そして抗えない何かに巻き込まれ、舞い、散っていきたいと願った。


それほど、“春”が僕にとっては特別だった。


だけど、一年前の今日、僕は春を嫌った。
僕の中で儚く、永遠であったはずの春を、心から捨てた。


大きな決断だった。

幸せも希望も、生きてきた記憶さえも捨てたかった。
僕は、僕の弱さに勝てなかった。

そうして心から願った。




もう二度と僕に“春”が訪れないように、と————