「...」
シーンとした待合室にぽつんと座る僕。
急いで検査室へと運ばれて行った琹の言葉が頭に蘇る。
『ごめんなさい、っ...稜ちゃ、ゆ、るし、て...』
僕は正直、この言葉の意味が分からなかった。
何故、僕の名前を知っているのか。
何で謝るのか。
何を許して欲しいのか。
苦しい中、わざわざ琹が放った謎だらけの文章。
人違いをしているのだろう。
この言葉を聞いたとき、僕はそう思った。
じゃあこれは、誰に向けての言葉なのか?
僕には分からなかった。
でも、僕はこの言葉を言った理由というのは分かる気がした。
僕の過去はすごく暗いもので。
沢山の人に裏切られ、見捨てられてきて。
琹が言った言葉は、裏切った側の人間が僕みたいな人に謝るための言葉だと思う。
もしそうだとしたら、もしかしたら僕に向けての言葉なのかも知れない。
だって実際、僕は〝琹〟という名に聞き覚えがあったから。
だから、そう呼ぶことに抵抗が無く、呼んでしまう。
もしも、琹と知り合いだったとしたら、辻褄が合うんじゃないか?
何故か僕は、ずっとそんなことを予想していた。
それから、数分が経った。
検査室のドアが開き、医師が出てくる。
「琹は?!」
僕は、自分でもびっくりするくらい大きな声で問い掛けた。
「なんとか一命を取り留めました。ですが油断は出来ません、...後でゆっくり、お話をさせて頂きます。」
医師は足早に去っていった。
良かった。
混乱していた頭と心を落ち着かせてから、僕は琹の病室へと歩き出した。