「酷い、傷ですね、」
必死に走り、気付けば僕は病院で手当てを受けていた。
両腕には幾つものリスカ痕。
頭からは大量の出血。
足は殴り過ぎで抉れていた。
「何があったんですか?、」
何度も心配そうに声を掛けてくる看護師。
僕は一言も話さなかった。
ただずっと、下を向いていた。
すると、急に顔に衝撃が走った。
「え?」
思わず漏れ出た僕の声は、すごくか弱いものだった。
「そんな弱気じゃ、駄目ですよ!!」
目の前には、僕の顔を殴ったであろう看護師が立っていた。
今にも泣きそうな瞳だった。
「女の子が、言っていました。...私が全部、全部悪いんだって。」
朦朧とした意識の中、運ばれてきた栞が発した言葉。
自我を忘れて走った僕は聞いていなかった。
「君が連れてきたあの女の子を守れるくらい、強くなってよ、、」
守る、?
今の僕と看護師の関係性では有り得ないことを言われた。
赤の他人の言葉だった。
でも、知っているはずのない僕達のことを知っているかの言葉で。
すごく深く、重たい言葉で。
その言葉は不思議と僕の心に強く響いた。
それほど僕の心は、傷付いていたんだ。
その瞬間、僕の感情や、失っていた感覚が蘇ってきた。
「うっ...」
僕は泣き出した。
何年ぶりだろう。
生きられないのが悲しくて泣いた。
生きるのが辛くて泣いた。
死ぬのが怖くて、泣いた。
産まれたての赤ん坊みたいに、僕はずっと泣いていた。
そしてその後、痛みを感じた。
ハンマーで殴られているかのように痛む頭。
気絶しそうに痛む腹。
動かない程痛む足。
「あなたの心が、生きているから痛みを感じられるんです」
僕の様子を見て、看護師が呟いた。
ちゃんと、生きてたんだ。
心が死んで無かったから、また痛みを感じることが出来た。
僕はそれを実感したと共に、体がずっと悲鳴をあげていたことを知った。
「いた、、いっ...」
僕は身体中を押さえて蹲った。
「生きてたんだ」
僕は静かにそう呟いた。